くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アラビアのロレンス」「五月のミル」

アラビアのロレンス

アラビアのロレンス
スクリーンでちゃんとみたのは高校生以来である。従って30年近く前になる。しかし、さすがにこれこそ大作、これこそ名作と今更ながら再認識してしまう。4時間近くあるにも関わらず思い返してみても無駄なシーンが一つも見あたらない。

壮大な砂漠を行くシーンが何度も出てくるにも関わらず、ただ純長なだけだったというようなショットも思い出せない。それほど、繰り返し繰り返し撮影し、選りすぐったシーンを種々選択して完成された作品であることの証明といえるだろう。

物語は今更いうまでもなく、第一次大戦頃のイギリスがアラブ方面へ進出していた頃、砂漠のロレンスとしてアラブ人たちから英雄としてあがめられ、アラブ諸国の軍隊を率いて活躍したイギリス将校の物語である。

イギリス本国からそのカリスマ性より自国の利益のために使い捨てられていく一軍人の物語としてもあまりにも有名なストーリーは、社会人になった今となって改めてこの作品のすばらしさに気づかされる。

と、そういう印象ももちろんだったが、今回見直してみて、いわゆるロレンスがアラブ人たちと接するうちに狂気の中にのめり込んでいく様がピーター・オトゥールの鬼気迫る演技に見事に表現されていることに改めて驚いてしまった。

初めてファサール王のテントからでてきてじっと地面を見据える視線からしてすでに常軌を逸している。つまり、このロレンスという男は単なる英雄ではなくどこかに常人をはずれた狂気の人間ではなかったかということなのである。最初こそアラブ諸国統一のために尽力しているかのように見えるも、殺戮を繰り返し、自らも意図しない殺人を行ううちに次第に心の底にあった狂気が表出していく。その展開の不気味さが、あまりにも美しい砂漠の景色のショットによって対照的に描き出されているのである。

そんな人並みはずれた才能をいいように利用した時の政治家たちの中で、いつの間にか使い捨てられていく哀愁こそがこの作品の最大のテーマなのである。

政治家たちの真の言葉を聞いた同僚の軍人アンソニー・クェイルが去っていったロレンスを追って飛び出すシーンが印象的です。これこそ映画と呼べる一本でした。


「五月のミル」
こちらもだいぶん以前に見たルイ・マル監督晩年の傑作といわれている作品の一本。

農園などを経営し、それなりの財産もある主人公ミル、その妻が突然死んでしまう。
子供たちや親戚などが次々と集まってくるがそれぞれがそれぞれに自由恋愛のごとく愛をはぐくんでいる。かくいうミルも家政婦の女とすでにできているのである。

孫たちの無邪気な質問や遊びにほほえましくも思う一方で息子や娘は妻の財産のことあるいは集まってきた男たち女たちと自然のままに愛を交わし始める。

パリでは学生たちのデモなどが佳境になり、息子の工場やらがストで混乱している様子がラジオで伝えられてくる。そして、物語も終盤になり、ドゴール大統領さえも逃亡し、フランスが内覧になるような雰囲気さえも伝えられ、ミルたちは森に避難する下りへ続く。

結局、事態は収拾し、無事妻の葬式が終わって子供たちは銘々去っていく。一人残ったミルが家にはいると妻が奏でるピアノの音が響き、幻のごとく妻とダンスを始めるミルの姿で映画は終わります。

ルイ・マルらしい恋愛論が展開しながら、年老いたミルとその妻の見えない物語はなかなかウィットも効いた作品になっていました。