深川栄洋監督はなんとも多作な人である。同時に公開している「白夜行」もこの人の作品なのです。そして、なぜか私はこの人の映画が好きなのです。
そんな一本がこの「洋菓子店コアンドル」
物語はたわいのないお話であるし、映像的にも「白夜行」とはうって変わってオーソドックスな画面が続きます。でも、この深川栄洋監督の演出はどこか心に響く優しさがあるのです。
誰も評価していない「60歳のラブレター」で何ともいえない感動をもらってから、この監督のファンでもあるのです。
映画が始まるとケーキを作っている調理台のアップ、そのそばでまどろんでいるかわいい少女。手際よくケーキが作られていく様子がフェードアウトしてタイトル。なんともほのかな甘さが漂ってくるようなタイトルバックです。
そして、物語は舞台である洋菓子店コアンドルへ。そこで働く人々、この作品の登場人物が画面に登場して、主人公である蒼井優が坂を上ってくる。
鹿児島を出てケーキ屋になると東京へ行った彼氏を捜しにきたなつめ(蒼井優)はコアンドルにいないことを知ってここで働きながら探すことにする。よくある展開の物語である。
そして、ここに通ってくる元天才シェフ十村(江口洋介)、いけすかない同僚マリコ(江口のりこ)、優しいオーナー依子(戸田恵子)などがさりげない物語をつづっていきます。
淡々と流れるエピソードの数々にちょっとオーバー演技の蒼井優ちゃん、そして、元彼とのエピソードもややとってつけたきらいもありますが、可もなく不可もないエピソードを重ねながら、ラストシーンへ向かいます。
十村が元妻のところに自分のケーキを届け、それを見届けて一人トランクを転がして坂道を下っていく蒼井優ちゃんの姿でエンディングですが、このラストはまさに映画ですね。
特に際だつショットなども見あたらない凡作ではあるけれども映画らしい演出が施された素直な映画だったと思います。