くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あしたのジョー」「男たちの挽歌A BETTER TOMORROW」

あしたのジョー

あしたのジョー
これだけの名作アニメの実写版となれば、期待しろというのが無理な話で、特にリアルタイムで熱狂した世代としてはこけ落とすために見に行くようなものである。

ところがどうして、この映画、なかなかおもしろい。もちろん、この手のスポーツドラマを得意にする曽利文彦監督であるからそれなりのレベルの作品になって当然だったのかもしれない。今回の映画化の舞台を原作同様高度経済成長期の日本にしたのも成功だったかもしれない。

映画が始まると、レトロなチンチン電車などが走る懐かしい町、そしてうらぶれたどこかのドヤ街、たむろする浮浪者、寂れてぼろぼろの家屋、カメラがぐーっと引くと原作の舞台になる泪橋、そこへ一人の若者がやってくる、そして懐かしい名曲のイントロとタイトル。わくわくさせる導入部である。

そして、アニメ版のメイン曲を歌詞なしで流しながらドヤ街を縫うようにカメラがとらえる。とある食堂でごちそうをほうばるジョー

実に、原作の味をしっかりと理解した上での舞台設定の演出が見事である。
こっから一気に誰もが知る「あしたのジョー」の物語が始まる。

刑務所に入るジョー、丹下のおっさんがよこす「あしたのために・・・」というはがき、力石徹との出会い、そして対決へと今更なぞるまでもないエピソードを丁寧に、しかも畳みかけるようにスピーディにおいながらクライマックスへ向かっていく脚本の筋立てが抜群で、画面を見ていて飽きさせない緊迫感が漂っていました。

主演の山下智久は演技は今一つだったかもしれませんが曽利文彦監督による演技演出のたまものか、それほどあらが目立たず、一方力石徹を演じた伊勢谷友介の抜群の演技力にカバーされて、非常に重厚な画面が展開できたと思います。
白石財閥の令嬢役の香里奈は今一つ品が漂わないのは残念でしたが、これもまた、対照的に描いた香川照之扮する丹下段平の存在感でかろうじて輝かせたと思います。

ボクシングシーンは曽利文彦得意のCG演出によるゆがんだ顔や崩れた体型がちょっとグロテスクでさえありましたが、あれはあれで、豪快に動き回るカメラワークとクレーン撮影を多用したダイナミックな演出でなかなか迫力のある戦いシーンになっていたと思います。

一方で、泪橋に咲くたんぽぽや子供がとばす紙飛行機など細かい小道具も丁寧に配置し、緩急を取り入れた画面づくりの妙味をしっかりと味わわせてくれました。

力石との対決シーン、そして彼の死、その後のエピローグまで素直に感動できる出来映えでなかなかよかったなぁと思います。

人によっては山下智久が物足りないとかいう人もいるでしょうが、これは商業映画なのですから、彼で観客を呼ぶのも映画作りの手法であることを理解すべきだと思います。そして、マイナス点があるなら演出や脚本などでカバーし、総合的にレベルの高い作品にすればいいのです。
その意味で、この作品はファンの期待を裏切らなかったと思います。


男たちの挽歌
ジョン・ウー監督のフィルムノワールの傑作を韓国を舞台にリメイクした期待作。といっても、私はオリジナル版をみていないのでどれほどのものだったのかは知りません。とはいえ今回のリメイクは期待の一本でした。

第一印象としては、正直大したことはなかった。いわゆる凡作だったと思います。それぞれの登場人物の性格付けがしっかりとできていないためにどの登場人物をとっても同じに見えてしまう。主人公であるヒョクの頼もしい兄貴的な性格、さらに気の弱い弟のチョルもクライマックスでこそ気の弱さを見せるがそれまでは兄貴と同じくらいの着強さを見せているように思える。さらにヒョクの仕事の相棒のヨンチュンも、冒頭でクールなチンピラでヒョクよりも頼もしく見せるにも関わらず落ちぶれた後、もう一度ヒョクと組んでからの頼もしい相棒へ変わるシーンが希薄。唯一テミンだけが狡猾な男振りを見せるが、いかんせん二枚目すぎてキャラクターが生きてこない。

特に際だった映像表現もみられず、ストーリー展開の演出にメリハリがみられない。アクションも特に秀逸でもない。前半のヨンチュンがタイマフィアのアジトへ単身殴り込んで二丁拳銃で撃ちまくるシーンこそ、美的映像とフィルムノワール的な味わいを見せるものの、肝心のクライマックスのド派手な銃撃シーンがなんとも平凡で、ただドンパチしているだけにしか見えない。

オリジナルは香港映画でかつB級こてこてのアクション映画だと思うので、もっと思い切ったことをしてほしかった。
主人公たちを北朝鮮からの脱北者にしてちょっと重みを加えたのはわかるけれども、ちょっと気負いすぎたのではないかと思います。

気楽に娯楽一本のアクション大作に仕上げてくれればもっとすばらしいリメイクになったのではないかと思うとちょっと残念。
ラストで、兄を殺され、ヨンチュンも死に、唯一残った弟は敵であるテミンを撃ち殺して自ら自殺するラストは涙を誘うべきシーンだが、全体にメリハリのない演出が施されているために盛り上がりに欠けてしまったようです。