くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「戦火の中へ」

戦火の中へ

戦闘シーンをふんだんに取り入れた作品を作ると、韓国映画はさすがにリアリティに富んでいる。それは、現実に今なお北朝鮮と戦闘状態にあるゆえの緊張感が生み出すものかもしれない。物量やスケールではアメリカ映画に引けを取るかもしれないが、迫力の点では遙かにレベルが上である。

この作品においてもスローモーションが多用されているとはいえ、それは単にごまかしのためではなく、リアルスピードだとあまりにも緊迫感が強すぎて観客に刺激が過ぎるためにその緩和策として用いられているのではないかと思えるほどのリアリティあふれる戦闘シーンが次々と展開していくのである。しかも演じる役者のそれぞれの視線、目が抜群に素晴らしい。まさに人を射抜くような鋭さを秘めた視線は生死をかけた戦いのシーンに見事に生きているのだ。

もちろん、監督の演出がもたらすものかもしれないが、俳優それぞれが身をもって体験している迫力に根ざしていると思う。徴兵制が今なお現実の中で、やはり軍人が軍人らしく見えるのである。
この作品の主人公達は学徒兵であるが、いざs銃をもった姿はまさに祖国を守ろうとする気合いがみなぎる。

物語は1950年8月に現実に起こった北朝鮮の兵隊とわずか71人の学徒兵だけで戦わざるを得なくなった少年達の壮絶な戦闘のドラマの実話である。
始まるとまもなく朝鮮戦争のテロップ。そして劣性になっている韓国と連合軍の姿から、いきなり緊迫感あふれる戦闘シーン、そこに銃弾をもって行けと命令される一人の少年ジャンボムの姿になる。そして爆撃の中をくぐり抜けてようやく銃弾を届けた直後、その場所は空爆され、自分は兵隊に守られながら何とか生き延びる。

そして舞台はこの作品の本編の背景となる中学校へ。そこに集められた71人の学徒兵。その体調としてジャンボムが選ばれ、本来の兵隊達はカン大尉を中心に死守すべき防衛戦である洛東江へ去っていく。
こうして学徒兵だけが残されたところへ、北朝鮮の兵隊が迫ってくる。

中心となるジャンボムとガプチョの人物描写も手短に的確に描き、一方のカン大尉の人間性も短いシーンの中で見事に描写してみせるイ・ジェハン監督の演出はなかなかのものである。
やがて戦闘が始まり、爆発、銃弾の飛び交う中で次々と見方も敵も倒れていく様子が実にリアリティと緊張感あふれる画面作りで描かれていく。

時に俯瞰で見上げるショット、アップで画面に映し出される少年達の顔、炎と爆発に吹き飛ぶ肉体のショットなど、細かいカットも含め見事なスペクタクルとして映し出される様は、画面に釘付けになってしまいます。
北朝鮮側の隊長チャ・スウォンもなかなかの個性的な姿を演じ、物語に深みをもたせるという性格付けも成功していると思います。

結局、主要人物はすべて死んでしまうというラストシーンに涙がにじみますが、それまでの緊張感が最後まで持続するので、これが実話だとふと我に返って何とも言えない充実感を味わえました。

悲劇の物語ですが、娯楽性も十分に兼ね備えた優れた脚本に仕上がった一本だったと思います。