くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「鯨とり」

鯨とり

1980年代韓国映画の最高傑作といわれている一本、今年の初夏にリバイバルされるらしいが、アジアン映画祭の一本だったので見てきた。

韓国映画特有のオーバーアクションの演技や稚拙な演出、あるいはそんなバカなというような雑なストーリー展開が所々に見られるとはいえ、非常にあか抜けた作品に仕上がっているのは秀逸な一本でした。

物語はもてない、頼りない、とらえどころのない一人の大学生ビョンテが、片思いの彼女にそっぽを向かれ、やけで歩いていたところをたちの悪い女詐欺師に引っかかって警察に捕まる。すんでのところで乞食風のお調子者の男(アン・ソンギ)に助けられ、この男を親分と呼んでついていくことに。そこでつれていかれた売春宿で虐待の中で言葉をしゃべれなくなった少女(キム・スチョル)に一目惚れし、彼女を故郷に送り届けるべく三人の逃避行をするというコミカルなロードムービーである。

背後に挿入される歌のテンポが非常にしゃれていて、韓国映画特有のしつこさがなく、気の利いたヨーロッパ映画のごとく、あるいはニューシネマの頃のアメリカ映画のように見えるところが実に韓国映画らしくない。

ピンチになると持ち前の機転で切り抜けていく親分の存在感のおもしろさ、一人の人間がとる行動の本当の暖かさを鋭く見抜いたシリアスな視点などもしっかりとエピソードの中に盛り込み、徒歩からヒッチハイク、汽車、自転車とつぎつぎとテンポよく逃げていくクライマックスが実に軽快。

売春宿のやくざたちが、ようやく追いつめ、ひっつかめたところで少女が口が利けるようになり必死で頼りないビョンテを守る姿に、「また今度時計を取りに来な」と捨てぜりふを残して去るシーンのしゃれっけある展開、さらに少女を送り届けた二人が彼女を残してまたソウルに帰るというモダンなラストシーンはなかなか韓国映画と思えないすっきり感で観客の胸を熱くしてくれます。

随所に見られる韓国映画独特の癖に目をつぶれば、非常によくできた一本ではないかといえます。