くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「私の少女」「イタリアは呼んでいる」「サンドラの週末」

kurawan2015-05-25

「私の少女」
人間ドラマの様相を呈しているが、微妙なサスペンスも含んだ、心理ドラマの佳作という感じの一本だった。

監督はチョン・ジュリという女性監督である。

一台の車が道路を走っている。道ばたにしゃがむ少女、車が通りすぎ、水たまりの水が少女に降り懸かる、運転していた女が降りるが、少女は逃げ去る。

映画はソウルから左遷され、田舎町に赴任してきた女所長ヨンナムの物語である。後に、彼女の左遷の原因が、同性愛だとわかるのだが、来たとたんから、なにやら虐待されているらしい少女ドヒと出会う。さらに、田舎の閉鎖的な空気が彼女に襲いかかる。

ある夜、父親に殴られている少女を発見、そこで父親を懲らしめるヨンナムに惹かれたドヒは何かにつけ、彼女を追いかけるようになり、ヨンナムはドヒをかくまうように一緒に生活するようになる。

確かに、いつも酔っぱらっては暴言を吐いているドヒの父ヨンハは憎々しい描き方をしているが、どこかドヒの不気味さもかいま見られるシーンがちらほらと登場。

ヨンナムもドヒのただならぬ存在感に、心を許しがたくなる。

ヨンハは、たまたまヨンナムがかつての恋人の女性とキスするところを見、それを弱みに、ヨンハを逮捕したヨンナムに向かって、ドヒとのただならぬ同居生活を異常として告発する。

過去を露わにされたヨンナムは逮捕されるが、ドヒは、釈放されたヨンハを図って、自分への性的虐待をしていた父親として演出し、逮捕させ、ヨンナムを救う。

やがて、転任するヨンナムは、車の中で、ドヒはどこか怖いところがあると答えた部下の警官の言葉に、ドヒを連れていくことを決意してエンディング。

果たして、ドヒの真の姿はなんのなのか?一歩狂うとホラーにさえ変わりそうな不気味さを漂わせ、ラストシーンの向こうが、未知の世界というエンディングは見事。

やたら、自宅でペットボトルに移した酒をを飲むヨンナムも、どこか暗い過去が見えるし、ヨンハにしても、憎々しく描いているものの、どこかやむにやまれない過去が垣間見られるところがこの映画のすごさだと思う。

危ういところを綱渡りするようなストーリー展開が絶妙の一本で、韓国映画の力がさりげなく伺える一本でした。


「イタリアは呼んでいる」
陽気で楽しい、映画というものを最大限に活用した映画、それがこの作品である。監督はマイケル・ウィンターボトム

ショービジネス界のスティーヴとボブは、ある朝、オブザーーバー紙の依頼でグルメ取材をすることになる。ミニクーパーを駆って、イタリアを北から南まで旅するロードムービーだが、セリフの至る所に、名作映画のセリフの物まねを繰り返し、一方で、細かいカットの切り替えしで、様々な料理を映像に映し出していく。

軽妙そのもののセリフの掛け合いが、とにかく楽しく、知る人ぞしる名優たちの名前や名画の名前、そして、ふざけた物まねの楽しさに、ストーリーを忘れてどんどん引き込まれていく。

若干、くどいと思えなくもないところもないわけではないものの、明るい日差しのイタリアの景色、次々と飛び出す名セリフのテンポ、見ているだけで、食欲をそそる料理の数々に、観光映画を越えるロマンティックなスクリーンの世界が広がる。

笑いの中に、どこか人生の機微が見え隠れする、家族とのネット電話でのやりとりから、最後に、家族との出会いは、ただのお気楽なコメディを越えた映画の魅力を生み出して、見ている私たちの心を暖かくしてくれます。

とっても素敵なロマンティックムービーという感じの一本でした。


「サンドラの週末」
マリオン・コテイヤールがアカデミー抄主演女優賞ノミネートされた作品で、数々の映画賞にノミネートされた映画ですが、どうも、そこまでいれ込むほどの作品には見えなかった。監督はジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌである。

鬱病から快復した主人公のサンドラ、金曜の朝目覚めると、解雇の電話が入る。会社へ行き社長に談判した結果、ボーナス支給をやめるか、彼女を復職させるかの従業員投票をする事を賛成させる。

彼女の復職に、過半数の賛成を得るための懇願活動を週末に始めることになるサンドラ。もちろん、復職に賛成すればボーナスがなくなるという選択を迫らせる。

様々な人々との会話の中に見えてくる、現実的な問題。果たして、サンドラの行動が正しいのかとさえ思えてくるのです。しかも、ことあるごとに薬を飲むサンドラ、果たして彼女は大丈夫なのかとも思うのです。

一方で、ボーナスをあきらめることが、即、生活にかかってくる現実を突きつけられ、人間としてのというどうこういう理屈がばからしくなる展開も疑問。

1000ユーロのボーナスの価値が、現実味を帯びて伝わらない私たちには、どうも入り込めないところもあり、マリオン・コテイヤールの演技の見事さも、それほど鬼気迫るものはなかった気がする。
結局、賛成反対同数で、彼女は解雇。社長の提案で秋に臨時雇用の従業員の期限が来るので、彼らを解雇してサンドラを雇用すると提案されるが、サンドラは拒否してエンディング。

音楽を排除したシンプルな映像づくりで、人間の心の葛藤を描いていくという演出の見所はわからなくもないのですが、個人的には、評価しすぎじゃないかと思える一本でした。