くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トゥルー・グリット」

トゥルー・グリット

昔々あるところに一人の少女マティがいました。彼女はとても利発で賢い女の子でした。
ある日、彼女のお父さんが雇い人のチュイニーに殺されました。マティはお父さんの敵をとるために飲んだくれだけど頼りがいのある保安官ルースターと口が達者で自尊心のかたまりのような、でも根はやさしいテキサスレンジャーのラビーフを引き連れチュイニーを追う旅に出ました。

まさに、こんなおとぎ話の出だしがぴったりと言えるコーエン兄弟がリメイクした西部劇「トゥルー・グリット」。私個人としては大好きな映画である。

雪の深々と降る景色の中で一人の男(マティのお父さん)が倒れている。背後に流れる事件のナレーション。そして場面が変わると一人の少女マティがお父さんの遺体を引き取りに町へやってくる。この出だしはいかにもオーソドックスな西部劇である。が、一方でコーエン兄弟ならではの美しい画面構図と雪景色など映像美でつづるおとぎ話のような西部劇でもある。

町の景色が今までの西部劇とうってかわって整然としているし、広々したセットになっている。良くあるような空っ風の吹く乾いたせせこましいイメージが非常に少ないことがまずわかる。もちろん、舞台となる町、季節なども関係あるのかもしれないが、この冒頭の町並みのシーンで、ちょっとかつての西部劇と色合いが違うことがわかります。もちろん、登場人物の保安官などは見るからにオーソドックスな出で立ち。飲んだくれで、ごつい風体、眼帯をしている。しかし、どこかさっぱりしているのも確かですね。

持ち前の才覚で見事にお金を作り出し、本当に頼りになる人物を見分けていくマティ(ヘイリー・スタインフェルド)が実に素晴らしい。愛くるしい中にきりりとした強さをにじませ、さらに見事な才覚の持ち主でもある。そんな彼女のキャラクターが実に見事に演じきられている。アカデミー助演女優賞受賞は納得である。

そして、いざ旅立つに当たり、父の帽子とコートをはおるとまるで飲み込まれたような風体に変わるのが何とも愛くるしいから素敵である。
西部劇に良く登場する荒涼とした平原を描く一方で、いつの間にか粉雪が舞ってくる描写を挿入したり、目の覚めるような地平線の広さを美的センスで挿入したりと、コーエン兄弟独特の映像美の世界が作品をさらにおもしろくしています。

そして、秀逸なのは脚本のすばらしさ。一つ一つのセリフで巧みにそれぞれのキャラクターの性格を見事に描き出すと共に、展開するプロットそれぞれの小さなエピソードを無駄なく生かしきりながらストーリーを紡いでいく。ほんの一言のセリフがちゃんと物語の中で生きてくるという緻密さはさすがにコーエン兄弟ならではの脚本力です。

三人がチュイニーを追いつめ、とらえるクライマックスに、さらにマティが穴に落ちて蛇に噛まれる下りからルースターにかけられ医者のところへ届けられ、さらに25年後のエピローグへと続く展開はどこか懐かしい昔話を聞いたような感覚にとらわれました。
格調の高いおとぎ話のような西部劇としての一本、その個性的なオリジナリティはアカデミー賞のノミネートに名を連ねるのになんの遜色も無いのですが、何かが足りない気がします。ストーリーの組み立てに甘さがあるのか、物足りなさがあるのか、それぞれのエピソードのごつさが足りないのか、ほんの一歩物足りないその感覚が、アカデミー賞を逃したのでしょうね。

でも、私は大好きな映画です。そして「英国王のスピーチ」よりはよほどアカデミー賞の貫禄のある作品だと思います