くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「殺人の告白」「宗方姉妹」「麦秋」

殺人の告白

「殺人の告白」
非常におもしろい。映画作品としてはレベルも低く幼稚な出来映えなのであるが、そんなことはものともせずにどんどん突っ走っていくバイタリティに気圧され、いつのまにかのめり込んでしまうのである。日本映画が失ってしまったこの迫力が、この手の韓国映画には存在する。

いきなり手持ちカメラのめまぐるしいデジタル映像にうんざりさせられる。一人の男が食堂でご飯を食べていると突然ショーウィンドウを割って飛び込んでくる男。食べていた男は刑事らしく、この飛び込んできた男と格闘になり、追跡戦が始まるのだ。

そして、その男を取り逃がした後、15年がたち物語は現代へ。一人の端正な青年が、自分は15年前の連続殺人事件の犯人で、時効が成立した今、その事件の全貌を本にして出版するという。人々は好奇と嫌悪感で見つめる。もちろん、当時の担当刑事ヒョングもこの出来事に目を疑う。

こうして、この狡猾きわまる犯人とヒョング刑事との対決と、この犯人ドゥソクをねらう被害者遺族による命を狙うというきわものアクションシーンが展開していく。

毒蛇でねらうもの、クロスボーでねらう女など多彩であるが、かなり現実味がない。しかし、これも娯楽である。その割り切りがおもしろい。

そして、クライマックス。ヒョング、そして真犯人だと出てきたJ,ドゥソクが集ったテレビ討論会の席で、ドゥソクは自分は真犯人ではない、実は被害者遺族であると白状し、真犯人をおびき出すために刑事と一緒に計画してきた事実を語る。つまり、被害者遺族全員が、真犯人をおびき出すために計画していたのだ。刑事の元恋人が最後の犠牲者である事実も明らかになってきてクライマックスへ。

逃げる真犯人をさんざんに追いつめ、恋人の母が用意した蛇の毒の注射を奪って刑事が犯人を殺す。そして、刑に服してでてきたところを被害者遺族が出迎えてエンディングである。フラットでとらえたラストの遺族たちの穏やかな顔立ちが実にいい。これでいいのである。

映画作品としては中の下かもしれないけれど、そのアイデアのおもしろさ、吹っ切れた展開とエピソードの組立はとっても楽しいエンターテインメントの素質を備えていると思います。素直におもしろかった。


「宗方姉妹」
高峰秀子特集で一昨年にみた一本。
再度見てもやはり、見事である。特に高峰秀子のコケティッシュな演技に最後まで引き込まれてしまうから不思議だ。

小津映画に珍しい不倫を絡めた物語ですが、次第に移り変わる家族の姿を演出していくスタイルに代わりはなく、何度見ても、何かの発見にを楽しんでしまうことに気がつきます。


麦秋
これもまたすばらしい名作でした。静かに流れる物語の中に、見事なくらいにうねりを生み出すエピソードの数々、それをまるで、一挙手一動まで計算して演出したかのようなシーンとカットの数々にうならされてしまいます。まさに小津芸術全盛期の一本ですね。

廊下にカナリヤのかごが並んでいる静かなローアングルのショットから映画が始まる。カットが変わってこの家の祖父間宮周吉がカナリヤの餌を練っている。男の子二人がやってくる。

この作品では子供たちが実に巧妙にストーリーに絡んでくる。舞台となる間宮家に二人のやんちゃな男の子。ラストで紀子が嫁ぐ決心をする矢部には幼い女の子がいる。

さらに、この作品で特筆されるのが原節子淡島千景が繰り返すせりふの掛け合いの楽しさ。女学校時代の友達ですでに結婚している二人をあわせて四人で、同級生の結婚式のあとでの会話のおもしろさといったら絶品。さらに、二人だけで何度かでてくるシーンも実に楽しい。

このコミカルなシーンが全体の物語のリズムにポンポンと弾むようなリズムを与えてくれます。

物語は間宮家の娘ですでに28歳になる紀子の縁談話を中心に巻き起こるホームドラマである。会社の重役の秘書をこなす彼女にある日専務佐竹から縁談の話が。しかし、調べてみると名家で会社役員らしいが年齢が40歳だという。それを聞いてとまどう兄康一と兄嫁の史子や両親。そんなとき、康一の病院の矢部という同僚が秋田への栄転の話がでる。その挨拶に矢部の母たみにあった紀子に、たみは紀子さんみたいな人が本当は後妻にきてくれたらと冗談半分にいうのだが、その場で紀子は承諾する。

こうして急転解する物語。戸惑う両親、憤る康一、しかし、紀子は兄嫁史子にこれは何かの縁のようだとはなすのである。
矢部の母たみを演じた杉村春子の演技がすばらしく。さらに、娘の微妙な縁談に戸惑う紀子の父周吉が一人散歩にでて、踏切の手前でぽつりと座ってぼんやりするシーンも見事。

さりげなく挿入される無人のローアングルのショットのみでなく、それぞれの人物に焦点を当てた些細なカットもすばらしい効果を生みだしているから、これはもう芸術である。しかも、立ち居振る舞いまで演出したのではないかと思えるような場面もあちこちに存在し、まさに映像が一つの芸術として完成された姿に酔いしれてしまう。

その上、演じる俳優たちそれぞれの演技の技量も最大限に発揮されていて、それを引き出した小津安二郎の手腕にも脱帽せざるを得ない。

当時の世相も見事に挿入されている。ショートケーキの値段。子供たちが騒ぐNゲージの電車の模型の線路にまつわるエピソード。兄がさらりと買ってくる食パン。などなど数え上げるときりがない。

奈良に住む周吉の兄茂吉が周吉と妻しげ二人を引き取ってじっと座るシーン。音楽がかぶり、カメラはゆっくりとたわわに広がる麦畑をゆっくりとパンしていく。そしてエンディング。

なにもかも書ききれないほど見所満載の芸術的な名作。本当にシンプルな物語なのに、これほど引き込まれるのはなぜだろうと凡人の私は思ってしまう一本でした。すばらしい。