くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「孫文の義士団」

孫文の義士団

香港で空前の大ヒット、先日のアジアン映画祭でも先行上映されたアクション超大作「孫文の義士団」を見た。
期待通りの抜群の面白さと本物の超大作であった。しかも、次々とその義士たちが死んでいくたびに涙が流れてくる。それぞれの人物の生き方の背景が実に丁寧に描かれた上でのアクションシーンであるからである。しかも、あたかも実話であるかのように死んだ人たちの生年などをテロップさせるというリアリティ演出もプラスになってくる。

もちろん、香港エンターテインメントであるから、娯楽性をしっかりと組みいれた物語になっていることは当然であるが、それでもその当然の展開さえもがかえって感動を呼び起こすのである。
それぞれの義士たちに語られるドラマは時に父と子のドラマであり、愛する人との悲しい過去であったりと直接胸に訴えかけてくるあまりにも身近な物語なのです。

さらに、ケネス・マクという美術監督が救った壮大な香港のセットも目を見張ります。港から香港を望む全景に始まり、孫文が駆け抜ける町中のセット、暗殺集団と義士たちとが壮絶な格闘戦を演じる建物、通路、道路、それぞれが本当にリアリティ満点にそして、非常に重厚に作られているために、次々と破壊され爆破されるにもかかわらず、しっかりとそこに存在感をもってたたずんでいる。これが歴史なのだといわんばかりなのである。

時は1901年、民主運動に危機感を持つ清朝はその思想を唱える一人の学者を暗殺する。そして、それを口火とし清朝は民主思想を唱える人物を暗殺すべく暗殺集団を組織していくのである。
そして、1906年。孫文が日本から中国にやってくるという極秘情報が流れる。

あらかじめ、彼の来訪を待っていた人々は京劇の劇場に隠れて、時がくればボディガードとして孫文を守るべく待ちかまえていた。しかし、一人の警察官シェン・チョンヤン(ドニー・イェン)が暗殺集団の手先となってその居場所を告げたために一網打尽に殺されてしまう。

刻一刻と孫文の来朝が迫る中、彼を守るべく、地元の豪商で名士でもあるリー・ユータン(ワン・シュエチー)は町中を巡って腕に覚えのありそうな人物を集め始めるのが物語の中盤である。
その中にはかつてリーの母と恋に落ち、そのため母が自殺するという事件の張本人でいまは浮浪者に身を落として悔いる日々をおく鉄扇の達人リユ・ユーバイ(レオン・ライ)もいた。そして、少林寺からきている身の丈2メートルもあろうかという拳法の達人ワン(メンケ・バータル)などが集められる。

物語はいよいよ孫文到着の日に迫る。しかし、案じたリー・ユータンの叔父で中国新聞の社長チェン・シャオバイ(レオン・カーフェイ)は孫文が各地の中国同盟の指導者と密談をする1時間をかせぐために、影武者をたてることを決意する。そしてくじ引きで選ばれたのがリーの息子リー・チョングアン(ワン・ポーチエ)なのだ。

影武者を乗せて車を引っ張るのはチョングアンの子供時代からユータンの店で世話になり兄弟のように親しいアスー(ニコラス・ツェー)。
こうして、様々な姿で迫ってくる暗殺集団とそれを迎え撃つ義士たち、さらに影武者となった息子チョングアンの姿、孫文の影などが、アクション監督トン・ワイの実に見事なカンフーアクションも交えて描かれるクライマックスが見応え十分で、次々と義士たちが敵に倒れていくたびに涙が頬を伝わってくる。

長身のワンもなんと子供の姿の暗殺集団に殺されたり、シェン(実はリーの今の妻ユエル(ファン・ピンピン)のかつての夫)もユエルに頼まれて、リー・ユータンを守るべく得意のカンフーで戦う。最後には敵の首領ヤン・シャオグオ(フージュン)の乗る馬に体当たりするという壮絶な死を迎える。

アスーも必死で幼なじみのリー・チョングアンを守るため、暗殺集団の首領ヤンに無謀にも殴りかかって殺されてしまう。
暗殺集団の首領ヤンはチャオ・シャンバイの教え子でもあるという人間関係も最後まで涙をそそり、最後にチャオにピストルで撃ち殺されるクライマックスを迎える。
孫文が無事、帰りの船に乗り影武者の真実をあかして何とかリー・ユータンの息子を守ろうとする叔父シャオの姿、それでも執拗に自らの職務を果たすべくリー・チョングアンを刺し殺すヤンの姿なも実にもの悲しい結末である。

結局、殺された息子に駆け寄るリー・ユータンの姿で映画は終わり。その後テロップで辛亥革命が成功した旨が流れる。

アクションのおもしろさはもちろんであるが、次々と登場する達人たちの格闘戦のみに焦点を絞らず、最初の護衛団が殺される下りから、あらたな義士たちを集める下り、さらに影武者をたてて1時間の時間稼ぎのために死んでいく人々の姿と、実に二十三重に組み立てた奥の深い物語構成をとったストーリーが見終わって何ともいえない充実感を残してくれるのです。

脚本の担当者の名前がないのは、香港映画特有の即興演出によって組み立てられたためでしょうか?それでもテディ・チャンの演出は見事であり、トン・ワイのアクション演出は独特のリアリティと迫力が生み出されている上にケネス・マクの素晴らしいセットとのコラボレーションが見事に結実した素晴らしい映画でした

もちろん、荒削りな部分もないとはいえませんがそんな部分は目をつぶってしまうおもしろさに香港映画の奥の深さに今更ながら感慨を覚える傑作でした。