非常に評判が悪い。中途半端である。物足りない。そういう声が巷の映画ファンから漏れてくる。実際、私が興味に行ったシネコンではお客さんは私一人でした。・・・笑
この映画私は結構楽しんだし、まじめに鑑賞することができました。つまり、これは歴史の事実を基にしているという前提を納得した上でないとその面白さに気がつかないかもしれないし、いまひとつという印象で映画館を出てしまうのだと思います。サダム・フセインの息子ウダイに瓜二つの男ラティフが影武者となって狂気を繰り返すウダイのそばに仕え、やがてそこから逃れるまでを描いた話ですが、サダム・フセインの息子の影武者となった男の話というところで、まず周到に練られた脚本による知的なアクションと捉えられがちなのかと思うのです。そしてその先入観で見てしまうと実に物足りなく終わってしまう。しかし、これはあくまで影武者となったラティフが書いた実話によるところがポイントなのだと思います。その意味で良質の人間ドラマと捉えればまぁ、普通の映画だった気がするのです。
映画が始まるとメルセデスに乗った一人の男ラティフが映される。ついたところはサダム・フセインの息子ウダイの屋敷。お互い高校生の同級生だったこともあり、ウダイはラティフに自分の影武者になれと半ば脅迫して迫ります。左右のシンメトリー名玄関先のショットから鏡に映るラティフのカットなど意図的なリー・タマホリ監督の演出が光ります。
こうして始まるこの作品。父サダム・フセインにさえ疎まれるウダイの好き勝手な言動、やたら女好きでやりたい放題に振舞う行動に時に反抗はしますが、時のイラクで正しいものを正しいという正義など存在しない中、従わざるを得ないラティフの姿が丁寧に描かれていく。ウダイの周辺お人たちもさりげなくウダイに反抗心を見せる視線の演出も絶妙な人間ドラマとなってストーリーを牽引していく。
そして、アメリカ軍の視察の帰りに負傷し、それでも自分勝手な言動でラティフを責めるウダイに愛想を尽かし、自ら手首を切るらティ。そして自宅に送り返されたラティフはそこで父に逃げるように勧められる。
ウダイの誕生日に招かれたラティフは相変わらず馬鹿騒ぎをするウダイを尻目に彼の女サラブをつれて逃げる。ウダイのボディガードがあえてラティフを見逃すくだりの伏線もラストに効いてくる。
何とか逃亡した先のホテルでもウダイからの連絡が。居場所を伝えたらしいサラブと別れ、ラティフはウダイを暗殺する決心をする。
そしてクライマックス。いつものように女あさりをするウダイの車に近づきラティフは銃を向けるが、ナンパされた女に邪魔をされ重傷を負わすだけに終わってしまう。ウダイのボディガードが目のあったラティフを見逃して暗転。その後アイルランドでラティフが目撃されたというテロップ、ウダイがアメリカ軍に殺されたというテロップが流れてエンディング。
サラブの物語がいまひとつ深みにかけるし、なぜラティフを裏切ったかが妙に物足りない。また悪名高いウダイのナンパに引っかかった女が打たれるウダイを守ってラティフの銃の邪魔をするのはちょっと納得いかないものの、全体にそんなにできの悪い作品だと思いませんでした。あくまで事実を基にしていることであり、崩せないストーリーをそのままに娯楽映画として完成させる必要があったのがリー・タマホリ監督の腕の見せ所だったでしょう。その意味で充実感のある作品だったと思います