くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天井桟敷の人々」

天井桟敷の人々

私のような若輩物ではなく、映画の黎明期からしっかりとごらんになっている名だたる映画評論家の面々が戦後外国映画のベストワンに必ず選ぶのがこの作品。ということで過去に何度か見たのですが、何度見てもどこをどう評価するのかわからないままに再度今回劇場のスクリーンで見直しました。

基本的に物語が合わないのでしょう。ひたすら機関銃のように繰り返される恋の台詞と洗練された会話の数々、そして隙がなさすぎるほどに描き込まれた映像、その中で語られる物語は一人の女性ガランス(アルレッティ)をひたすら愛するバチスト(ジャン・ルイ・バロー)、一度は手にしたかに思えながら、バチストへの愛に負けてしまうフレデリックピエール・ブラッスール)、自ら悪人であることを自覚し、自分の方に向くことなどあり得ないと思いながらも密かにその幸福を願うラスネール(マルセル・エラン)、そして、地位と名誉によって彼女を得たつもりになった物の、そのバチストへの愛に嫉妬するしかないモントレー公爵(ルイ・サルー)。そして、そこに絡んでくるのがバチストをひたすら愛し、結婚、出産まで至るナタリー(マリア・カザレス)の存在という奥の深い愛の物語故であるかと思います。

第一部「犯罪大通り」はバチストの見事なパントマイムに目を奪われ、ガランスとの出会い、そして、天才的な演技者フレデリックとバチストとの友情、そこへ絡むラスネールの不器用なガランスへの愛、さらにモントレー公爵の心が描かれます。
バチストとガランスの無言劇の舞台が有名なシーンですが、同じ劇場でしのぎを削るフレデリックとの交流する展開も前半の見所でしょう。少々荒い展開で、ガランスが警察の疑いをはらすためにモントレー公爵の名刺を出すショットで前半が終わる。確かに見事なストーリー展開ですが、いかんせん何度見てもしんどい。

後半「白い男」はその6年後、バチストはナタリーと結婚、子供がいる

入り組んでいるかに見える恋愛劇ですが、細やかに書き込まれた脚本の隅々に、物語の展開にキーポイントになる台詞がきっちりと描き込まれ、そのほんのわずかな言葉を踏襲するように見事にストーリーが展開していく。
劇中劇で繰り返されるバチストの天才的な無言劇、フレデリックの情熱的なそしてどこか風刺の絡む舞台、時々現れてはスパイスをかたる浮浪者の男。それぞれが映画作品という一つの芸術にむかってパリを舞台に集約された映像のすばらしさがこの映画の最大の価値なのではないかと思います。

モントレー公爵と決闘をすることでガランスとバチストを見守ってやろうとするフレデリック、その一方で二人を守るためにモントレー公爵を殺害するラスネール、そしてそのことでガランスに幸せを獲得してやろうとする男の純情。

見事なお膳立てが整ったところでのクライマックス、バチストとガランスの抱擁する姿を見たナタリーに、言葉もなくパリを去るために馬車に乗るガランス、それを追うバチスト、ところ狭しとパリの通りにカーニバルの雑踏が二人を引き裂いていく。
「ガランス!、ガランス!」とさけぶバチストの姿をカメラがゆっくりとズームアウトしてエンディングになるラストは圧巻。

あまりにも完成度が高すぎて、3時間を優に超える長さも合り、さらに苦手なラブストーリーのみの世界故に、いままでその真価を理解し得なかったのだろうと思います。
ようやく、この映画の本当のすばらしさがわずかに見えたような気がしました。