くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「127時間」

127時間

「スラムドッグ&ミリオネア」でも見られたが、このダニー・ボイルという監督の音楽リズムのセンスは抜群だと思う。「スラムドッグ・・」同様今回の作品でもその見事なリズム感覚で映像をもてあそぶように演出していく。

一歩間違うと、死を目前にした主人公の生死の境を差妙悲壮な深淵のそこでもがく姿になるところだが、ダニー・ボイルは真剣に主人公をとらえながらもどこかに観客を楽しませようとする遊び感覚が見え隠れする。もちろん、それは責められるべきものではなくて、映像作家として常に忘れてはならない、「映画は娯楽である」という基本理念に基づくものなのである。

映画が始まると、画面を三分割、四分割などによるスプリットイメージでスポーツ観戦しているらしい群衆のショットが画面狭しと写されやがて、その画面の一つに主人公アーロンが写されて物語が始まる。

ハイテンポで軽快に画面展開し、これから主人公が向かう渓谷までのお話がまるでスキップするように描かれていく。しかし、そこかしこにこれからの災難をどうしようもなくする様々な伏線のショットをはさんでいるのがすごい。

さて、現地に着いた彼はたまたま道に迷っている二人の女性に会い、大騒ぎした後分かれて、目的地へ行こうとするが、突然足を踏み外した拍子に隙間に落ちて腕を落ちてきた岩に挟まれる。そしてメインタイトルが写る。一気に引き込むダニー・ボイルの演出は完全にリズムに乗っています。

そこからの悲壮な127時間が描かれていくが、フラッシュバックや主人公の幻覚、さらにはファンタジックとさえ思えるかすかに見える空のイメージが独特の映像編集と特殊撮影で挿入されていく様は実に見事である。

少しずつ死が迫っているはずなのに、悲壮感よりアーロンの前向きなひたむきさが徹底的に描かれているのが実に心地良い。いや、心地良いという言葉は不謹慎かもしれないが、出だしとは微妙に変わった映像リズムはさらに単調になりそうな物語に抑揚を生み出してくる。

もちろん、最後は腕を切り落とし、必死で脱出することは実話であるためにわかっているのだが、挟まれてすぐ、持っているナイフが安物で、腕を切り落とすには非力であるのをみせたりと、非常に演出も凝っている。もちろん、これも実際にそうだったのかもしれないが。

ようやく、脱出したアーロン、しかし、映画はそこで単純に終わらせず、いかにして助けを呼び、助かったかを丁寧に描いていく。もちろん、だれることもなくエンディングまでしっかりと演出したダニー・ボイルの姿勢は実に好感。アカデミー賞を争っただけの作品に仕上がっています。もちろん、今年のレベルとしての話ですが。

「スラムドッグ&ミリオネア」と非常に似た映像作品似仕上がっているので、「スラムドッグ&ミリオネア」は斬新さで受賞したが、今回はちょっと無理があるだろうともいえる一本でした。

しかし、それなりのオリジナリティのあるレベルの高い映画でした。