くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大阪物語」(市川準)

大阪物語

大阪がはじけている。そして、しみじみと大阪が好きになってしまう。そんな映画がこの市川準監督の「大阪物語」である。

20年近くこれといって売れていないものの惰性のように続けている夫婦漫才の両親を持つ主人公霜月若菜(池脇千鶴)のスクリーンに語りかけるせりふで映画は幕を開ける。

淡々と語られていく彼女のせりふの端々にそこかしことなくにじみ出てくる両親への思い、自分の将来の不安や希望、淡い恋心、毎日のさりげない日々、そして、どん底に近い生活なのにどこか暖かい家庭。

まるでドキュメントのように、あるいはホームビデオのように巧みな手持ちカメラの映像でつづる物語は実に親しみやすく、まるで他人と思えない主人公たちの姿が非常に見直に感じ見入ってしまう。

若菜の父隆介は女癖が悪く、ある日一人の女を妊娠させ、それが元で妻の春美と分かれることになる。しかし夫婦漫才のコンビは続け、住まいも同じ長屋の四軒先という始末。新しい女やその子供とも一緒くたに生活する若菜たちの姿もまた妙に憎めないほどにほほえましいし、どこか人間的な暖かさが感じられるのが本当にいいんですよね。

しかし、そんな女も子供を残してでていってしまう。さらに、突然父親の隆介も消えてしまい。中盤から後半は若菜が父親を捜す物語になる。

かつて隆介を知る人々がまるでインタビューを受けるかのように若菜に語るのは、誰もが「隆介はおもろいやつだった、いいひとやった・・・」等々。この展開もさらにこの作品にほのぼのしたそして生身の息づかいを呼び起こしてくれるのです。

時折隆介の姿。そして突然隆介は車にはねられてしまう。
ショッキングなシーンであるはずが、どこかあまりにも日常的に映される演出が何ともいえない気持ちにさせられるのですが、この入院をきっかけに若菜は警察に見つけてもらい病院で弟や母親たちと再会するスローモーションのショットは最高にすばらしいです。

しかし、映画はここで終わらない。一ヶ月後、隆介は死んでしまうというナレーションとともに葬式の場面。そして、再び背中に赤ん坊をしょった若菜が冒頭のシーンと同じく私たちに語りかけて映画はストップモーションで終わります。

脚本のすばらしさは犬童一心。見事なストーリー構成の組立と、市川準監督のカメラワークの絶妙のバランスが、実に人情味あふれる大阪の町並みとそこに住まいする人々の人なつこい姿を見事に映像として映し出してくれます。

なぜか、じわりと感動している自分に気がつくというさりげないエンディングがすばらしい一本でした。