くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「黒い十人の女」「夜の終りに」「不運」

黒い十人の女

黒い十人の女
市川崑監督の映像センスが光るスタリッシュなサスペンス映画の秀作でした。
横長のワイドスクリーンの右半分左半分という人物配置と市川監督ならではのクローズアップと遠近の配置、さらに影を利用した効果的なライティングによってミステリアスながらどこかブラックユーモア満載の物語を展開していきます。

とても現実的なドラマではないのですが、毒がいっぱい詰まったスリリングな展開にいつの間にか引き込まれてしまう魅力がありました。

真っ暗な夜道、一人の女性をつけて別の女性、さらに物陰から現れる女、女、そして路地の隅に集まる九人の女、それを見下ろす、すでに死んだ一人の女。こうして始まるファーストシーンから物語は過去への回想劇となります。

次々と女を作るテレビプロデューサーの風。その女遍歴とテレビ局の喧噪、したたかな女たちのブラックな会話の連続にどんどんお話はサスペンスを深めていく。
ストーリーは女たちが自分たちを手玉に取った男風を殺してしまおうと画策するが、それは妻がお芝居を打って撃ち殺してしまう。そのかわり二度と女たちは近づかないようにするのだが、それがばれてファーストシーンの路地の場面へ。

風が死んだと思いこんだ印刷屋の女社長は自殺したために幽霊となって登場。そして、今度は岸恵子扮する元女優が風を拉致し、会社を辞めさせ、離婚させて取り込んでしまう。

風はすべてを失い女の囲いものになってエンディングなのだが、とても50年前に作られた作品と思えないほどにモダンであるのが実にすばらしく、今更ながら市川崑の感性に拍手したくなる一本でした。よかった。


「夜の終わりに」
巨匠アンジェイ・ワイダ監督の名作と解説されている作品。

二人の男女が向き合っているイラストをバックにタイトルがおわるとその絵の前に突然一人の女性がフレームイン。その絵は町におかれた看板であるとわかる。このファーストシーンがとにかくいい。

一人の男性アンジェイが自分の部屋でくつろいでいるところへ窓から小石を投げる音に気がつく。さっきの女性が石を投げている。それに答えて彼は仕事場へ。彼はスポーツ専門の医師であるとわかるが、夜はジャズのドラマーで、そこで一人の女性マグダを知る。友達がうまく彼女の彼氏を引き離した隙に彼はマグダをつれて夜の町へ。そして自宅で二人でゲームをして過ごす。

夜が明けてアンジェイがふと部屋を空けた隙に彼女がいなくなって、町中をバイクで探すが見つからず自宅に戻ると彼女は戻っている。しかし眠ったふりをしたアンジェイを後目に彼女はでていく。「30分だけあなたを愛したわ」という言葉を残して。

背後に流れる甘ったるいジャズのトランペットがヨーロッパ映画らしい息吹を醸しだし、たわいのない物語であるがそこに存在するムードは明らかに映画的なフィクションである。アンジェイが組んでいるバンドのメンバーが夜明けに窓の外でトランペットを吹いてみたり、アンジェイの友人が廃墟のようなところで眠っていたりと、映画的なシーンの中にひとときのラブストーリーが展開する様は心地よい感覚に酔いしれることができます。

若きアンジェイ・ワイダの演出とイエジー・スコリモフスキーの脚本が美しくマッチングした作品で、見上げるようなショットやまどから見下ろす俯瞰のショットなどスクリーンの世界に酔いしれる一品でした。


「不運」
1930年から1950年のポーランドを舞台に独りの不運に見回れる青年の物語をドタバタ劇の形式で描いていくアンジェイ・ムンクのいわゆる風刺劇と呼ばれる作品。

映画が始まると主人公の男がなにやら尋問を受けているようで、その男はこれまでの自分の不運な人生を回顧しながら語り始める。

最初は学生時代。仕立てやの息子で日和見主義でその場その場を切り抜けようとする青年である主人公のはなしがまるでサイレント映画のドタバタコメディのような映像で描かれる。時にトリック撮影を交えたりしてまさに古き懐かしのサイレント映画の如し。

こうして、青年期から老年期まで、時に戦争に行き捕虜になり、時に事業に成功して金持ちになり、時に恋をしたりするがそれぞれの絶頂期で何らかの不運に見回れてしまう。そしてとうとう、殺人未遂で牢獄へ。やがて刑期を終えて冒頭のシーンに続くが、釈放されてまた不運に見回れるよりこのまま監獄にいた方がいいと抵抗してエンディング。

解説によればロマン主義に偏るポーランド映画への辛辣な風刺だそうであるが、さすがにそこまで読むほどポーランド映画に習熟しているわけではないので、解説に頼らざるを得ない。

のらりくらりとその場その場でうそをついて世の中を渡ろうとする主人公の姿に共感はとてもできないので、これをフィクションと見なければとても最後まで見れない。アンジェイ・ムンクの辛辣な視点を理解し得ればこの映画の価値がわかるのだろうが、そのあたりの鑑賞眼はもって以内の絵、とにかく6つのエピソードを楽しんだもののしんどかったのも事実である。しかし、レアな一本を見ることができて満足なひとときだった。