くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シャンハイ」「大阪物語(吉村版)」「曽根崎心中」

シャンハイ

「シャンハイ」
短いカットを積み重ねて緊迫感満点の映像を満載したサスペンスでした。とはいえ、物語の本筋にはアンナ(コン・リー)とソームズ(ジョン・キューザック)の恋やランティン(チョウ・ユンファ)のアンナへの愛情の強さ、タナカ(渡辺謙)とスミコ(菊地凛子)さらにアメリカ人諜報員コナーとの恋が入り乱れてのごった煮シチューのような様相の作品でした。

物語は太平洋戦争前夜ともいうべき1941年。アメリカ人諜報員コナーが殺されたということで調査にきたソームズが日本人将校タナカにとらえられるところから映画が始まる。そして時は二ヶ月前に。

コナーが探っていた情報は日本軍の秘密裏の行動の真相。あちこちに張り巡らされたそれぞれのスパイたちがそれぞれの任務の中で恋人を裏切り友人を差し出すというシャンハイの当時の世相がサスペンスを盛り上げていきます。

ミカエル・ハフストローム監督の演出は男と女のドラマにロマンを感じさせながら、時に畳みかけるようなカットを積み重ね裏切り者やターゲットを殺戮するシーンを交錯させていく。どんよりと暗いシャンハイの夜が画面の大半を占めるために全体のムードが実に陰気である。さらに繰り返されるスパイ戦とじわりじわりと迫ってくる太平洋戦争への秒読みが緊迫感を上乗せしてきます。

作るべき作品のイメージはぼんやりと伝わってくるものの1時間50分ほどの短い作品に仕上げた無理がやや見られ、もう少しゆったりと人間同士のドラマを描いてもよかったのではないかと思います。

箸にも棒にかからない駄作とはいえませんが、サスペンスの結末である真珠湾攻撃は周知の事実であり、その真相へ向かうだけのミステリーに力を注ぎすぎたような気がします。肝心のコナー殺人にたどり着く謎解きのおもしろさにラブストーリーを丁寧に練り込んだ展開しすればもう少し感情に訴える映画になったような気がします。

決して、損をした気はしませんが、あまりにも展開が小刻みすぎたように思えました。

大阪物語」(吉村版)
溝口健二監督が「赤戦地帯」の次に企画したもののの道半ばで急逝、吉村公三郎監督があとを次いだ作品であるが、これが非常にすばらしかった。

溝口監督が撮っていたらどうなったかはべつにして、コミカルなほどに喜劇タッチで描いていく主人公の生きざまが実にすがすがしいほどに明るい。サスペンスフルなほどに次の展開に引き込まれていくストーリー構成の絶妙の感覚、そして、ぽんぽんと弾むようなテンポで演出していく吉村監督の軽快な映像演出の妙味、中村雁治郎のひょうひょうたる主人公のあっけらかんとしたケチンボぶりが痛快。

原作は井原西鶴の「日本永代蔵」などを元に溝口健二監督が一つの物語に仕上げたもので、依田義賢が脚本を担当している。
貧乏のどん底の近江の百姓が、夜逃げ同然に大阪に出てきて、こぼれた米を毎晩集めて10年、そのケチンボの徹底で一代を築き上げたものの、何かにつけて異常なくらいに節約をする銭の亡者のごとくなっていく主人公、やがて、妻も病死、家族や手代からも心が離れていった主人公は蔵の中で自分の金を抱いて気が狂ってしまう。

ある意味非常にシリアスな話であるが、喜劇タッチの映像テンポで引き込んでいく見事さは脚本のすばらしさか吉村監督の手腕か、実に見応え十分な一本でした。

さりげなくわき役で出てくる勝新太郎香川京子中村玉緒市川雷蔵が何とも当時の日本映画のキャストの層の深さをかいま見せてくれます。これぞ黄金時代の名作と呼べる一本だったと思います。

曽根崎心中
これぞ、増村保造監督の真骨頂、圧倒的な女の情念、恋の情炎が燃え上がる傑作でした。

映画が始まり梶芽衣子と宇崎竜童がせりふを語り始めるとその迫力に画面に釘付けになる。釘付けという言葉がぴったりで、一瞬も逃すまじと食い入ってしまうのである。

せりふ回しの絶妙なニュアンス、言葉の端々にじわりとにじみ出るような燃え上がる心の叫び、人を射抜くような強烈な視線の演技、お初と徳兵衛の繰り返されるせりふの応酬の鬼気迫る迫力、さらにそれぞれがそれぞれを想う気持ちを語るときの恐怖さえ覚えるひたむきさ。細やかな演出が大胆な迫力となってスタンダード画面の中から観客にぶつけられてくる。
これこそが増村保造の映画である。どこか「大地の子守歌」に共通する物があるところもあるものの、その迫力は似ていて異質のものであるように思う。

道行きの二人を描きながら、ここに至るまでのいきさつが回想されて語られていく。次第に行き場がなくなり死への旅立ち以外に選択できなくなっていく二人のあまりにも悲しい運命。そして皮肉にも、死を覚悟した夜にすべての疑いも晴れ運命は二人に味方しようと大きく動き始めたときにはすでに遅く、二人は死出の旅路でお互いに刃物でのどを突き刺す。エンディングまで釘付けにされた私たちはラストシーンで一気に涙がにじんでいることの気がつきます。

全く、これほどの傑作を今まで見逃していたことはあまりにも口惜しいくらいの一本でした。