「肉体の門」
圧倒的な映像美学で描ききる戦後混乱気の姿は、鈴木清順監督の美学の真骨頂かもしれません。しかも、木村威夫の美術セットもすばらしい一本でした。
画面の半分にオーバーラップのように映し出される人間の顔のテクニックや、冒頭部分のハイスピード撮影によるスローモーション映像、主人公のマヤの服装をブルーにし、パンパンのリーダー格せんの服を真っ赤に、そのほかをきいろなど現色で彩り、背後のセットをグレーで統一して人物を浮かび上がらせる画面づくりのおもしろさ、これこそ清純ワールドです。
物語は有名な原作で、戦後の混乱期、売春で身を立てる女たちの汗くさくなるようなぎらぎらした世界に一人の女マヤがやってくる。幸せになることに対して極端な制裁などで拒否し、必死で生きる女たちの姿をむんむんする映像とストーリーで映し出していく。
そこへやってくる復員兵の伊吹。誰もが今の生活を逃れこの男と幸せをつかみたいと思う一方で、仲間に先を越されまいと疑心暗鬼に暗躍してしまう。
やがてマヤと伊吹は体を重ねてしまうが、伊吹を恨む地元のチンピラの告げ口で伊吹はMPに射殺される。
どこかへ逃げようと待ち合わせの場所にやってきたマヤのまえに伊吹がもっていた血だらけの日の丸の旗が目にとびこむ。カメラがロングで引いてはるかかなたにアメリカ国旗がはためいて映画は終わります。
さすがに、映像芸術の限りを尽くした鈴木清順のアバンギャルドな美学は最高に映画のムードを盛り上げてくれる。むせかえるような狭苦しいセンたちの住処、ごった返す人通りのショット、そして清順ならではのテクニカルなショットが絡み合う必死に生きる女たちの物語は、これぞどん底の人間ドラマと訴えかけてくる迫力を感じました。
「秋津温泉」
映画友達が絶賛の美しいラブストーリーの傑作。
とにかく、画面が抜群に均整がとれていて絵が美しい。日本画の美しさというよりも、日本人が描く日本の風景が作品の中に生き生きとそして静かにたたずんでいるという映像美の世界にうっとりしてしまいます。
しかも、物語はあまりにも純粋で一途な大人の恋の物語なのだから、文芸ものというジャンルのレベルを遙かに超えた出来映えの傑作なのです。
胸の病を抱えた主人公周作はとある列車の中で山深い秋津温泉の秋津荘の女中と知り合い、そこへ逗留することになる。そしてそこでまだ17歳のあどけない旅館の一人娘新子と出会う。
命が風前の灯火のようで、自暴自棄になっている周作に新子はしっかりと寄り添って、彼に何とかいきる力を与えようとし、そんな新子に周作はすっかり心を通じてしまう。しかし、周作はある日突然岡山に帰ってしまう。
それから数年して再び周作は秋津荘を訪れる。こうして周作と新子の切なくもまぶしいくらいにはかない恋物語が展開していくのですが、四季の山々のとらえ方、木々の林の中に二人をとらえるショット、旅館の廊下で格子の戸の影を使ったショットなど日本的な落ち着いた構図の中に美の頂点のような画面が展開する様はまさに芸術でもあります。
周作は岡山で所帯をもち、子供も産まれる。
やがて10年後にやってきた周作と新子はとうとう結ばれるが、この日もまた二人は別れていく。駅で見送る新子に手を振る周作。二人の情念が頂点になる。
そして、周作は東京へ就職し、新しい毎日を送るが会社の出張で何度メカの安芸津温泉を訪れる。すでに秋津荘の処分も進めている新子は一人離れに住んでいる。そこで何度メカの一夜を共に死、周作が帰るのを送る途中で、周作に別れを言った後自分の手首を切る新子。
最初にあったときに秋津荘を捨てていればこれほどまでに悩むことも苦しむこともなかった渡航解する新子の究極の愛の表現なのかもしれない。
息絶えた新香を抱き抱え泣き崩れる周作の姿で映画は終わります。
音楽の使い方といい、画面づくりの見事さといい、ストーリー展開の美しさといい、まさに交響楽のごとき映像芸術に酔ってしまうほどの感動を覚える傑作でした。
「大地の子守歌」
死ぬまでにもう一度スクリーンでみたいと思っていた生涯のベストワン映画。主演の原田美枝子にすっかり虜になり、クライマックスのせりふやシーンを思い出す旅に涙を流した傑作をようやく本日見直すことができました。
やはり、すばらしい。何度見ても胸が熱くなってしまい、冒頭の田中絹代とのやりとりのシーンからすっかりのめり込んでしまいました。
そして、あらためてこの映画は原田美枝子の存在が作品のレベルを引き上げていることに気がつきました。
山の中で走り回る少女時代からラストシーンまで強烈な演技力で作品を圧倒していることがわかります。そして、しだいに化粧が変わってきてかわいらしい女性に変わっていく姿も見事。
キャスト、スタッフが唯一無二でほかが考えられない名作映画がたくさんありますが、この「大地の子守歌」もそんな一本だと思います。原田美枝子の存在があってこその作品なのです。そして増村保造監督がいてこその出来栄えだったと思います。