くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「幸せパズル」

幸せパズル

50歳を迎えた主人公のマリアのお誕生パーティから映画が幕を開けます。
バースデイケーキを作る手元、友人を招いてのホームパーティなのでたくさんの料理を作る手が写されますが、実は作っているのは主人公のマリア本人。自分のパーティに自分で支度をするシーンがある意味どこかぎくしゃくしたムードを感じさせますが、息子二人と愛する夫に囲まれたマリアの家庭は実に平凡な幸せな家庭なのです。

サラミを頼まれて皿に盛ったマリアがつまずいて皿を落とし割ってしまう。かけらを集めて一枚の皿になるようにするショットからこの映画の主題が見えてきます。

バースデイプレゼントにもらったジグソーパズルをしているうちに夢中になり、その魅力にとりつかれてしまうマリア。
パズルマニアという店で買ったことを教えられ早速出かけそこでジグソーパズルの大会があることを知ります。そして、ペアで出場するため、そのパートナー募集の張り紙をみたマリアは家族で内緒で応募、まもなく一人の男性ロベルトから連絡がきます。

こうしてマリアは週に二度このパートナーとジグソーパズルの大会にでるべく練習を始める。一方、息子たち二人はそれぞれ自立を望んで、両親の思惑とは違う道を歩みかける。次第に遠ざかるような感覚を覚えるマリア、さらに夫も昔ながらの仕事人間で、マリアが必要以上のことをするのには反対の様子。

そんな中、なかなか言い出せないマリアの様子。当たり前のように家事や料理をするマリアに息子も夫もそれほどのいたわりも見せない。そんなよくある家庭の中で、マリアは何か物足りなさを感じている様子がじわりじわりと画面に漂いはじめます。

ほとんどがホームビデオのような手持ちのカメラワークと、バストショット以上の構図で人物をとらえていくというカメラアングルが息苦しさを覚えるときもありますが、それはつまりマリア本人の息苦しさであるのかもしれません。

そして、徐々に決意を固め、ジグソーパズルの大会にでることを告白。子供たちは大喜び、夫も志布志部ながら愛するマリアをいたわり賛成します。

そして大会。マリアの独特の組立方法でマリアたちのペアは圧勝、世界大会であるドイツへの切符を手にします。
家族で祝杯を挙げますが、マリアはパートナーのロベルトに、ドイツへ行かないとつげ、ドイツへの切符だけ受け取ります。

いつのまにか、ロベルトに惹かれ始めたマリアの苦渋の決断だったのでしょう。ロベルトに告げた帰り道、涙があふれてくるマリアのショットが印象的です。

戻ったマリアは再び家事にいそしみ、もらったドイツへの切符は棚の箱の中にしまい込みます。

そして、エンディング。エンドタイトルのバックには青青と広がる空を背景に草原で一人、お弁当を広げて食事するマリアの姿が映される。

自由を求めて、家族を捨てることが幸福か、それとも自分の心を抑えて家族の元に戻るのが幸福か、マリアにとってはひとときの自由への夢だったのかもしれませんが、今の生活も決して不幸ではないということに気がつくというエンディングなのではないでしょうか。

本来ミニシアターにかかってもおかしくないような作品ですが大阪シティシネマでしか上映されませんでした。
非常に丁寧に演出されていく俳優さんたちの姿が印象的な一本だったと思います