「都会という港」
大ヒットしたラジオドラマの映画化で、山本富士子が一人二役を演じるまさに娯楽大作です。
大阪船場の老舗木綿問屋を舞台に主人公のいとはん千佐登(山本富士子)を中心に繰り広げられる人情ドラマでたわいのない物語ですが、日本映画黄金期の息吹を感じさせる非常に映画らしい映画でした。
電車の中、千佐登がお金の工面に近づいた岡崎証券の社長の傍らにうさんくさい私立探偵古橋があることないこと喋り捲っているシーンに始まります。軽妙そのものの導入部から、懐かしい1958年当時の大阪駅の風景が映し出され、舞台である老舗木綿問屋に移ってきて本編へ。
千佐登には妹真佐枝がいて駆け落ち同然に東京へ行ったものの一緒に行った男がふがいなく紐のような存在になって苦労をしている。ありきたりの設定の中で古橋が世話を焼きながらたわいのないドラマが展開していきます。なんといっても山本富士子が抜群に美しく、まさに映画女優らしい貫禄でこの作品を引き立てている様が本当に華やかなりし黄金時代をうかがわせうれしくなってしまうのです。
金の工面に放送する千佐登の姿と妹を探すくだりを巧妙に織り交ぜながら、周辺にスター俳優達を配置し、どうなるのかと思わせるストーリー展開はまさに職人監督島耕二の演出の妙味といえます。
まぁ、そんなことよりもラストはそれぞれがそれぞれに丸く収まってハッピーエンド。見終わって、ああおもしろかったと気持ちよくなるエンディングこそ映画が娯楽の王様であった息吹を感じさせられ本当に楽しい一本でした。
「悪名無敵」
シリーズ物のプログラムピクチャーの典型的な作品で、主人公二人の素性などいまさら説明するわけでもなく、いきなり本編の物語に飛び込んでいく導入部は本当に小気味よいほどに爽快で肩の凝らない娯楽作品なのです。
勝新太郎、田宮二郎のコンビがたまたま見かけた家出娘のおせっかいをするという本当にたわいのない物語ですが、コレこそ映画黄金期というべき見所はさまざまなひいきのスターが演じるさまざまな役柄の面白さでしょうか。
この作品ではなんと八千草薫が娼婦のちゃきちゃきの娘を演じるし、藤村志保はやくざの親分を演じるという逸品がなんとも見所というところでしょうか。
いたるところに勝新太郎、田宮二郎の乱闘シーンがちりばめられ、笑いあり人情ありという普通の人間ドラマですが、なんと撮影は宮川一夫、脚本は依田義賢と超一流のスタッフが加わり、杜氏の日本映画界の懐の深さをまざまざと見せ付けられます。
結局、ラストはこじつけたかのようになるべくしてなってハッピーエンド。そのお気楽さが本当に気楽に楽しめるこれぞエンターテインメントといえる作品でした。