くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ロボジー」

ロボジー

ファンタジーとリアリティの微妙な狭間で綱渡りのように展開するほのぼのしたコメディ。とっても良かったし、心もあったかくなる秀作に出会いました。
矢口史靖監督は「スウィングガールズ」以来のファンですが、前作「ハッピー・フライト」は個人的にはいまひとつだったので、今回の映画もその宣伝から推測してちょっと不安でした。ロボットの中におじいさんが入ってそれで繰り広げられるドタバタ劇なんて、ちょっとありきたりかなと思っていたのですが、なんとその物語の構成のうまさにもうすっかり引き込まれてしまいました。吉高由里子さんのファンでもあるので前半はそっち視点となんともミーハー的でしたが、中盤から展開がロボットの中身のお話に進んでいってからは完全にこの作品のストーリーのなかにはまり込んだのです。

映画は木村電気という白物家電メーカー、社長の突然の思いつきでロボットを作ることになり、その完成期限が迫っている。開発室にはうだつの阿賀らなそうな三人の技術者。彼らが居眠りをしたりしているショットから映画が始まります。そこへ飛び込んでくる社長。適当に返事をした社員たちですが、ふとしたはずみで途中までできていたロボットが窓から落ち、さらにそれまでのデータの入ったパソコンさえも壊れてしまう。窮した彼らはロボットの中に人間を入れて来るロボット博覧会の急場しのぎをすることに。

一方、ここに定年後、日々つまらない毎日を送る一人暮らしの老人鈴木重光。娘夫婦にも疎んじられ、孫からもしたわれていない。老人会の集まりもつまらない。そこへ一枚のチラシ。着ぐるみショーの中身の募集に応募、いったんは落ちますが、採用された若者が金属アレルギーで辞退、鈴木重光にその番がまわってきてしまう。

こうして始まるドタバタ劇。ロボットショーでたまたまロボットオタクの佐々木葉子(吉高由里子)を助けたために一気に木村電気のロボットが脚光を浴び、引っ張りだこになる。鈴木は自分がいないと木村電気の社員がこまることをいいことにだんだんわがまま砲台。このままの展開だと鈴木重光がだんだん小憎たらしくなってくるのですが、この絶妙のタイミングで、佐々木がこのロボットの中身が人間ではないかと疑い始め、その証拠集めをし始める。このストーリーの急展開のタイミングが見事で、ここから田畑智子ふんするケーブルテレビのキャスター伊丹が加わって化けの皮はがしが始まりますが、これもそれほどしつこくなく、さらりとその真実を見せる記者会見の場面に進む。

そこですべてを暴露する手はずだったにもかかわらず、鈴木重光はロボットに入ったまま、コードを引っ掛けて窓から落ちる。と思ったのはフェイクで、途中でロボット模型と入れ替わり自分はロッカーに潜んでいた。落ちたロボット模型にその場の記者たちもびっくり。疑惑は晴らされ、ロボットはやっぱりロボットだったということに。

一人、着ぐるみを脱いだ鈴木重光が寂しく会社を後にするシーンが俯瞰でカメラが捕らえる。こういうシーンこそ映画である。地割と感動を呼び、この老人にさえ観客は心を持っていかれるのです。

そして一年半後、佐々木は木村電気に就職、あの三人組と一緒にロボット開発をして、次のロボットは区への出品を待っている。ところがハプニングでまたまた窓の下へ。そして窮余の策として再び鈴木重光の家へ。玄関で出迎える鈴木重光のにんまり笑うショットで映画は終わります。

途中、大学の講義で木村電気の三人がしどろもどろの講義をしたり、イベント会場でコスプレオタクたちに混じって鈴木重光がロボットの格好のままタクシーに乗って、孫たちの家にやってきたりとほほえましいほどのファンタジックな場面もちりばめられ、一方で佐々木がたまたまとった映像に映っていた着ぐるみロボットの頭から出ていた一本の髪の毛に、このロボットが着ぐるみだと気づくサスペンスフルなリアリティも埋め込まれている。

非常にストレートで軽いタッチの脚本ながら、そこかしこに伏線をはった楽しいプロットの数々が絶妙のタイミングで登場する。よく考えるとありえないお話ですが、でも映画なんだからあってもいいじゃないのと思ったりする、このバランスが実に良くて、深い読みなど必要なくただあっさりと笑いの中にいつの間にかあったかい平和なひと時を過ごして映画館を出ることができる。こういう作品を作れるのはやはり矢口監督だけかも知れません。

ラストシーンがちょっとくどいとか、省いても良かった?というような穴がまったくないとはいえませんが、それはそれでこの作品のムード作りとして息苦しさを排除するための効果を生んでいると思うし、小気味良いファンタジックなコメディ映画の秀作だったと思います。