くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋人たちのパレード」「花の白虎隊」「命美わし」

恋人たちのパレード

「恋人たちのパレード」
やたらあちこちに出ているロバート・パティンソン主演のラブストーリー。監督はフランシス・ローレンスです。リース・ウィザースプーンが結構好きな女優さんなのでそれを目当てに出かけたという感じです。

あまり期待もしてませんでしたが、これがちょっとロマンティックですてきな映画でした。

開巻、サーカスのテントが背後に見えその切符売り場がど真ん中にある画面から映画がはじまる。どこかファンタジーの幕開けのようなオープニングがとってもいいのです。いそがしそうに片づけをする若者たちのそばに一人の老人が。老人ホームから一人でやってきたその老人は事務所で若者にかつて自分はベンジーニ・ブラザーズというサーカス団にいたという。興味をそそられた若者はそのサーカスのことを聞き始め、老人は若い頃の物語をゆっくりとはなし始めるのです。

とってもファンタジックな導入部にどんどん引き込まれる。

物語は世界恐慌の直後、大学で獣医学を学んだ主人公ジェイコブはこの日卒業試験だった。ところが試験の最中に両親が交通事故でなくなったと聞く。さらに銀行の抵当にとられて自宅もなくし、文無しになった彼はとぼとぼと線路を歩いていく。どこへともなく。そこへ通りかかった列車に飛び乗ったジェイコブはそこがベンジーニ・ブラザーズというサーカス団の列車と知る。

こうして、サーカス団に世話になったジェイコブはそこの団長オーガストの妻マーリーナと出会うのです。

ある日、そこへ象のロージーが買われてくる。
賢いロージーと気のあったジェイコブとマーリーナは急速に接近。しかし嫉妬深いオーガストの目に留まるようになる。

すぐに感情的になるオーガストだが、ふと寂しそうにうなだれる描写もあり、非常に細やかな人間描写が実に物語に深みを与えていきます。それに、ジェイコブとマーリーナの恋もいきなり突っ走るような安易な描き方をしていないのがうまい。

しかし、嫉妬に狂ったオーガストと諍いになったジェイコブはマーリーナとともに逃亡。しかしすぐに連れ戻されるが、オーガストに不満のあった団員が騒ぎ企て、その隙に二人はロージーもつれて脱出する。マーリーナを殺そうとするオーガストをロージーが助ける下りが本当に胸を打ちます。

そして、すべてを語り終えた老人は若者に「自分をここで雇わないか」とほほえむ。カメラは老人のアップをじっととらえます。そして画面はモノクロのホームムービーになって、ジェイコブとマーリーナ、そしてロージーらのその後のほほえましい幸せな家庭。ベンジーニを去った彼らは当時トップの人気だったリングリングサーカスに雇われたそして、そこで、子供にも恵まれ幸福な生活が写されます。

ロージーも死に、マーリーナもこの世を去りましたが幸せだったと語る老人の声をバックにほほえましい画面が写されていく下りに胸が熱くなってきます。

とっても心が温かくなって、それでいて夢のような物語が展開。もちろんオーガストというちょっと嫌われ者も出てくるものの、完全な悪人出もないところがとってもいいのです。

単純なラブストーリーかとおもいきや原題が「water for elephants(サーカス象に水を)」であり、この映画はもっと別の中身のある映画だとわかります。象のロージーの存在でとっても映画がノスタルジックになるし、サーカスという舞台である意味夢の世界のフィクションであるかのような錯覚にも引き込まれる。そんなムードがとっても良い映画でした。

「花の白虎隊」
なんと、市川雷蔵勝新太郎主演のオールスター映画である。

古きよき日本映画の黄金時代、おそらく当時ごらんになっていたファンたちはそのすべての俳優さんに驚喜していたのだと思うが、今となっては私には市川雷蔵勝新太郎くらいしかわからないのが残念。それに彼らもまだまだ20歳そこそこだったのではないか。

物語は有名な会津白虎隊の悲劇を扱っている。特に秀でた映像でも何でもないふつうの映画であるが、さすがに音声と画像の痛みが激しい。

スターそれぞれにカメラが寄っては見せ場を作っていくというたわいのない娯楽映画ですが、黄金時代を知る上でみて損はなかったかもしれない。今回の16ミリフィルム上映が最後の機会だったかもしれませんからね。

「命美わし」
大庭秀雄監督の社会はドラマの傑作という解説に期待の一本でした。

なるほど解説通りの秀作でしたそれぞれの登場人物のドラマが見事にオーバーラップで次々と展開していく。しかも、重苦しい方へ一方的になだれ込んでいかずに、絶妙のユーモアで締めくくっていくストーリー構成のおもしろさも目を見張る。さらに、画面の組み立ての美しさである。残念ながらフィルムが劣化していてせっかくの濃淡と陰影で見せる人物と背景の切り替えしの美しさや、何度も挿入される堀に写る山々のショットの透明感など想像で補うしかないのが何とも残念。

青葉城の堀が自殺の名所であるというバスガイドの案内で映画が幕を開ける。その堀のほとりに住む主人公の伊村先生とその妻みねが琴と尺八で合奏している。友人の医師高山が訪ねてきている。ふと、伊村が顔を上げる。堀に飛び込もうとする人の予感がするという。

そそくさと高山医師と一緒に堀に出かけ、なんともユーモア満点の展開で一人の女性房江助ける。その介抱をしているところへ長男の寛一が一人の女性あさ子を助けて駆け込んでくる。

こうして二人の女性を助けたことからこの家族になんともいえない話がどんどん膨らんでいくという物語だ。

房江は妊娠していたらしく、その相手は市会議員のドラ息子らしい。その弾劾記事を長男の寛一が書いたことで父の市会議員が怒鳴り込んできたりする。しかし、一方でそんな記事でさらし者にした房江を気遣って次男の修二が房江を連れて出ていってしまう。このまま社会ドラマのようになりそうなのだが展開はするりと次の段階へ流れていく。そのテンポがとっても心地よい。

一方のあさ子は寛一が高山医師の病院への勤めを進めたのにバーの女給になっているのを見つけて苦しみ悩む。
しかし、物事はこのままどんどん暗い方向へ進まず、寛一はあさ子と修二は房江といい仲になっていって終盤へとなだれ込んでいくのだ。

終盤、かつて助けた男女が夫婦になって赤ん坊を連れて伊村先生宅を訪れるクライマックスは何とものどかでほのぼのし笑わせてくれる。

そして、再び伊村先生と妻みねの合奏。予感がして竹竿を持って堀へそそくさ出ていく笠智衆がなんともいいですね。

人物たちの物語が次々とオーバーラップし、そしてどんどん進展していく。そんな中でさりげなくわき役の人物たちがストーリーを引き締める。見事な人物ドラマの妙味を堪能させてくれる上に画面づくりが美しい。さらに映画が娯楽であると熟知したスタッフたちによる最高のエンディングへなだれ込むリズム感にも圧倒。

本当に、劣化しているのが残念な一本でした。