くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「江戸最後の日」

江戸最後の日

約30年前、戦争で紛失したと思われていた戦前の日活映画がロシアで発見される。そのときの一本が今日見た「江戸最後の日」である。稲垣浩監督の戦前の代表作の一本で、江戸城無血開城をクライマックスにした歴史物である。

発見当時、公開された時に見逃したのですが、今回初めて見てその完成度の高さにうなってしまう。そして阪東妻三郎のカリスマ的な俳優としての力量にも頭が下がる思いでした。

明治にはいって、江戸城に残った徳川軍勢と西郷隆盛率いる官軍が今にも一触即発の状態になっている。ここで戦争になっては諸外国の付け入る隙を作るだけだと危惧した勝海舟はその知略の限りを尽くして無血開城徳川慶喜の命を守るために奔走する。その破天荒かつ巧妙な駆け引きの様子が淡々と語られる様はまさにサスペンスである。

さらに豪快にクレーンや移動撮影を駆使して合間の緊張した江戸城周辺の姿を描く稲垣浩のカメラ演出もこの作品を娯楽作品の一級品に仕上げる力となっている。そして、そんな緊張したシーンの合間に繰り入れられる美しい楽曲の数々が作品の格調を引き上げるとともに、ひときわ際だつ阪東妻三郎のせりふ回しの迫力が物語にとてつもない大きさと迫力を生み出していく。

フィルムがかなり痛んでいるので非常に残念であるけれど、もしこれがまっさらの画面であったら画面づくりの見事さも相まってそのすばらしさに息をのんだことだろうと思います。

古き時代劇でありながら、西郷隆盛を画面に登場させないという斬新な人物設定で勝海舟という希代の偉人を浮き上がらせ、周辺の人物たちをも決して埋もれさせることなくストーリーに織り込んでいく。そして、ラストは第二次大戦間近の日本の姿をかいま見るような未だ天皇制時代の現実の製作背景も見え隠れする。

歴史遺産としての価値もふんだんに見られる一本として貴重だったと思います。