くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「僕等がいた 前編」

僕等がいた 前編

映画館にやって来た人たちが一本の映画を見て、あんな主人公になりたい。あんなヒロインになって、あんな人生を生きてみたい。と憧れを抱く。そんな気持ちを抱かせる映画が本当の意味での映画の魅力だと思います。その意味でこの映画はストレートに見ている私たちに「恋愛ってすばらしいな」と訴えかけてくる本当に真摯に作られた良質のラブストーリーだった気がしました。

原作はベストセラーコミック。ピュアすぎる恋愛物語です。でもそのピュアな部分を素直に感じ取って、妙に小細工をせずに丁寧に丁寧に実写映画に仕上げた。そんなスタッフのまじめな姿勢が本当にきれいに画面から伝わってくる。映画作品として質が高いとか言う前に映画が生み出すべき純粋な感情が本当にきれいにつたわってきたのです。だからこの映画はいい映画と呼びたいと思います。そして、こういう映画が大ヒットして社会現象まで巻き起こしてこの映画の同年代の小年少女たちがこの主人公にあこがれるくらいに流行すれば世の中はどんどん良くなっていくんじゃないかと思えるんです。

で、自分に戻りましょう。この映画、元来この手のラブストーリーは苦手なのですが、昨年見た「君に届け」もものすごく良かったし、今回は大好きな(って結構好きな女優さんが多い)吉高由里子さんが出ていることもあって見に行きました。

青い空、主人公高橋七海が空を仰いで回想する場面から映画が始まります。背後に流れる吉高由里子さんの独り言の声がとっても静かで、園声の質もプラスになって作品をすごく落ち着いたムードに包んでいきます。

北海道釧路の高校、屋上で8点という無様なテスト結果をみつめる高橋。そこへ紙飛行機が飛んでくる。拾ってみると0点の答案用紙で作った飛行機。その持ち主がそばにいたので声をかける。その高校生は矢野元晴、実は0点ではなく100点だった。こうして二人は出会う。矢野は学校では三分の二の女子が好きになるほどのモテ男。その場はさらっと別れたものの、いつの間にかお互いがお互いに惹かれはじめていく。

矢野には親友の竹内がいる。宮崎あおいさんと別れた高岡蒼甫、今回なかなかいい役柄でスクリーンに登場。

この前編は高校生活で知り合った矢野と高橋、高橋に想いを寄せる竹内の話を中心に、矢野の本恋人の妹である同級生の山本有里との物語である。
高校生活と淡々と描いていく一方で、何かにつけ離れてはよりを戻す矢野と高橋の姿が丁寧につむがれていくストーリー展開になっている。このあたり脚本の吉田智子が実にうまくプロットを組み立てて構成しているのがいいです。

画面はデジタルカメラでハイキーな露出で撮影しているためか全体が白くかすんでいる。最初はちょっとこのカメラマンに疑問を持ったが、ほかの作品では相ではなかったし監督の三木孝治も「ソラニン」のときはそんな演出をしていないのでこれは意図してこういうハイキー名画面にしたのかもしれない。

やがて、夏休み、文化祭、冬休みと時は流れ田ある日矢野の母が離婚することになり東京へ引っ越すことになる。最初は高橋と一緒にいたいために一人北海道に残る決心をする矢野だが、高橋に諭され、母について東京へ行くことにする。引越しの場面で「血液検査の再検査の通知」を矢野が見るシーンがあることで後半への伏線となる。

そして、別れの日、駅のホームで矢野を見送る高橋のショットでエンディング。その6年後東京の大学にいった高橋がまもなく迎える大学卒業を前に生活を送る。あのホームでの別れ以来、矢野ともあっていないというナレーションが流れる。

エンドタイトルの後に後半の予告編的な映像が流れて映画は終わるが、素直に「早く後編が見たい」と思った。そう思わせたのだからこの映画は成功だったと思います。
途中、山本有里の母が病院へ担ぎ込まれ、矢野が山本からのメールに駆けつけたためにせっかくの高橋と矢野のデートがすっぽかされる場面でなどやや周辺の人物の生活背景を描ききれていない部分もある。それに矢野と高橋の家庭がまったく見えてこないのは欠点といえば欠点ですが、それは二人の物語に焦点を集めた脚本の意図的なものと捉えればあれはあれでよかったかもしれません。

キネ旬によると、何人かの評論家もこの映画を好感と評価している。最初に書いたけれど、本当にまじめに、真摯に、原作を丁寧にきれいなラブストーリーに仕上げているのが認められたのだと思うし、私もこの映画については酷評する部分はないと思います。