くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想[HICK ルリ13歳の旅」「カラスの親指」

HICKルリ13歳の旅

「HICK ルリ13歳の旅」
キック・アス」「モールス」などのクロエ・グレース・モレッツ初主演映画ということだが、「キック・アス」も「モールス」も彼女の映画だといっても過言ではない。それほど今のりに乗っている女優なのです。

映画は単純なロードムービー。誕生日にピストルをプレゼントにもらうところから映画が始まる。と、どんなプレゼントやねん?とつっこんでしまうファーストシーンだ。ハーモニカによるカントリーウェスタンが流れて、絵を描いて迎えを待つルリの姿のファーストショットに酔っぱらって車をつっこむ父親のカットから誕生パーティシーンへと軽いリズム感のある映像で引き込まれる。

ところがある朝目を覚ますと見知らぬ不動産屋がいて、その男と母は出ていく。そんな母を見た父はルリをおいて出ていく。一人になったルリはプレゼントにもらったピストルを持ってラスベガスを目指す。一攫千金をねらうという動機に始まるが、途中で足の悪いエディという青年と出会ったり、わけありのグレンダという女性と知り合う中で、世の中を知る展開らしいが、どうも脚本がよくない。

ほのぼのと未来を目指す前向き映画なのか、サスペンスホラーなのか、どれもが中途半端に展開していく。結局、エディは異常者でルリをベッドに縛って出かけたり、そんなエディにかつて同じ目にあったのがグレンダだったりとなんとも一貫性のない脚本になっている。それぞれの人物が十分に描き切れていないのである。エディにしても善人か悪人かその背後を明確にしたキャラクター演出ができていないし、グレンダの人生の背景も見えてこない。この辺が弱いためにストーリーが陳腐になってしまった。

結局、アレックス・ボールドウィン扮するモーテルのおやじの姉を頼ってロスへいくことを決めてエンディングだが、これもまた行き着くところハッピーエンドかは不明なのだ。

特に秀でた映像もないし、演出も見えない平凡な映画ですが、個性的でキュートなクロエ・グレース・モレッツを見ることができたからそれで十分な一本でした。


カラスの親指
道尾秀介原作のミステリードラマであるが、何とも脚本がまずい。二時間を超える映画になっているのですが、小説が映画になっていないのです。もっと原作のエッセンスをくみ取って映像として作り直さないとこの作品のように非常にだらだらした物語になってしまう。

物語の前半部分で竹さんが鉄さんに自分の身の上話を公園で延々としますが、このあと新しい住まいになって縁側で同じ内容を竹さんがつぶやくシーンがある。全く二重になってしまった部分で、このあたりも含めもっとシャープな切り返しで展開していかないから、ラストの爽快な強奪シーンからさらにエピローグで続くどんでん返しもだらだらしてしまって生き生きしていないのです。

ストーリーだけをもう一度思い出して見ると実に楽しい物語なのに、その楽しさが映画ではほとんど伝わらない。思い切ってカットすべきはカットし映像で見せる部分は映像で演出すべきだった。そのあたりが全く映画をわかっていないのかと素人ながら残念で仕方ありません。

競馬場で竹さんと鉄さんが詐欺をする場面に映画は始まりますが、ここもつかみのシーンとしては切れが悪い。このあたりあの名作「スティング」と比べると、いかにあの映画がすばらしかったかがわかる。風船が空に飛んでタイトル。

ここから、竹さん等が相棒になる少女たちとあうまでも実にもたもたしてるし、火をつけられて、水で消す場面のコミカルな展開が実に待ったりとして笑いにならない。

大きな仕事として実行するクライマックスもそれほどのわくわく感も生み出さないほどにそれまでの展開と抑揚がないし、すべてが終わって、エピローグ、実はすべては鉄さんが仕込んだ詐欺で、竹さんのことを知った上で彼を立ち直らせ、子供たちを自立させ、やくざの勢力もそいでしまうという計画を暴露する場面も爽快感がない。

石原さとみの個性も生かされていないのは残念でしたが、能年玲奈がなかなかがんばっていて、ものすごく存在感が全面に出ていた。一方村上ショージがなんとも素人臭くて、彼がしゃべるとどっちらけというのは完全にミスキャストだった気がします。

全く箸にも棒にもというわけではないしそれなりに長尺ながら楽しめたのですが、何とも惜しい一本でした。