くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シグナル〜月曜日のルカ」「道〜白磁の人〜」

シグナル月曜日のルカ

「シグナル 月曜日のルカ」
仲里依沙版の「時をかける少女」の谷口正晃監督作品なので期待の一本でした。原作はミステリー小説です。

主人公恵介が夏休み地元の映画館にあるバイトに申し込んでくるところから映画が始まる。時給1500円という破格の値段を示されるのですが、それには3つの条件があった。映写技師で3年間この映画館からでたことのないルカという少女の過去にふれないこと、などが示され、物語が始まります。

時をかける少女」の時ほど軽快で見事な映像テンポが今回の作品では全く見られないのがちょっと残念な出来映えで、ストーリーだけを語れば、都市伝説を田舎に持ち込んで描くストーカーの物語としてふつうの作品だった気がします。

ルカの謎をシリアスに演出するのかというと、このルカがミステリアスに見えるのは前半のほんの少しの間だけ。不気味にツィッターに登場するウルシダレイジの存在も、それほど不可解に迫ってこない。すぐにそれぞれがそれぞれなりにふつうの青春ストーリーに流れ始める。

ウルシダが恵介に近づいてくる展開も、恵介のだめおやじの描写も今一つ作品に深みをもたらしてこないために、なんか尻切れトンボ的にお飾りで終わってしまう。

ルカの写真がウルシダの彼女によってツィッターにアップされる。ルカが追いつめられる。劇場が恵介とルカの二人だけになるというクライマックスの緊張感、そこへ乗り込んでくるウルシダのシーンもどうも盛り上がりに欠けるし、あっさりと去っていくウルシダの存在も今一つ。

結局、野外映画会を開催することになり、その夜、恵介は編入試験のために旅立つ。最後にルカとキスをし、列車を見送るルカのシーン、暗転。ここで甘酸っぱくも切ないラブストーリーとして締めくくってほしいのだが、今一つ余韻が残らない。

全体に決してつまらないわけではないのですが、「時をかける少女」がそれなりの出来映えで良かったので、今回ちょっと残念に思えてしまいました。

「道〜白磁の人〜」
朝鮮半島に緑を戻すべき尽力、やがて白磁の魅力に引かれていく日本人浅川巧の物語を現地で親しくなる朝鮮人チョンリムとの心の交流を交えて描いていく。

画面から滲みでてくるような人間ドラマを描かせると高橋伴明監督は実にうまいなぁと思います。この作品も実在の人物の伝記なので、本当の人間愛、善意と偽善の境目が実にうまく描かれている。下手をすると嫌みな映画になりがちな作品なのですが、朝鮮人がさりげなく日本人を受け入れていく様子がかなりシリアスな視点でつづられていくのです。

日本軍の横暴をそこかしこに挿入しますが、決して日本人を卑下した視点で描写していかない。どこまでいっても朝鮮人に受け入れられていない主人公の姿を徹底的に画面に映し出しながらも、彼が死んだ後、朝鮮人たちがこぞって浅川巧の棺を担ぎにやってくる。さらに、エピローグとして、第二次大戦の終戦後、朝鮮が独立し、各地で反日の暴動が起こった中、浅川巧の家に群がった朝鮮人たちが、彼の家だと知って、あわてて引き返していく。

下手をすると非常にあざといシーンではありますが、高橋監督はそういうシーンを作品全体に占めるバランスを絶妙の配分で配置することで、ストレートな感動を呼び起こしてくれます。

「禅 ZEN」「BOX 袴田事件 命とは」同様、丁寧かつ真摯な人間ドラマの秀作として今回も完成されていたと思います。元来、この手の偉人物語は苦手なのですが、ラストでは自然と涙があふれていました。日本人はもっと自分たちに誇りを持たないといけませんね。