くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「父よ母よ」「最強のふたり」

父よ母よ

「父よ母よ」
主人公である新聞記者の私が当時の様々な非行少年少女たちの姿をその過去と現代、そして非行に至る過程、それらをひもときながらつづっていくドキュメントタッチの映画である。メッセージ性が強く全面にですぎて、個人的には好みの作品ではないけれども、二時間あまりある作品を最後まで画面に引きつける演出力はさすがだと思う。


制作された年は1980年、ディスコブームを中心にいわば高度経済成長の頂点から次第にバブルへとむかう時代、一方で世界第二位の経済大国を自負しながらどこか矛盾が露呈し始めた日本の姿を的確に描写していく。まさに時代を見せる木下恵介監督作品らしい一本である。

アニメやマンガのシーンを取り入れたり、画面に黒子のように歩く主人公を挿入したり、映像への実験的な試みもなされている。

歪みが出始めた日本、んぜ少年少女非行へ走るのか、その原因の一つに当時の父や母の過剰な子供への愛情があると語る。戦争で貧困の極地で育った人々が親になり、自分が経験した苦しさを味わわせまいと子供たちに与える愛情、それは心のこもったものと言うより物や金に形を変えた愛情であるのかもしれない。また一方で、大人たちも当時の矛盾の中で道を誤り、飲んだくれたり家庭を顧みずにこれもまた子供に対する愛情の与え方を間違えていると語る。

少しずつ崩れていく日本の家庭の現状をまさに先読みした先見性で木下恵介監督は警鐘を発したかのようであった。

とにかく、これでもかと訴えかけてくるメッセージは非常に重いし、しんどい。しかし、これを作られた時代でリアルに評価するれば傑作なのだろうと思えるのも事実なのだ。


最強のふたり
よくある話であり、ストーリーの展開からラストシーンまでの物語はだいたい読める。にもかかわらず映像のテンポが実にいいし、音楽のセンスもしゃれている。だからちょっとハイセンスな佳作に仕上がっていてとっても良かった。

夜の町、疾走するスーパーカー。中に乗るのは調子の良さそうな黒人と髭もじゃの白人。どうやらこの白人は下半身が不随のようである。しかし二人の会話はにぎやかで、次々と追い抜いていくスピード感あふれるシーンとアースウィンド&ファイアー* SEPTEMBERの曲がかぶって対比してとっても軽快。警官に捕まっても難なくとぼけてその場をしのいでしまう。こうしてこの映画は始まる。

時間が少しさかのぼって、スラム街に暮らす黒人のドリスがとある大富豪の介護人の募集にやってきているシーンに変わる。次々と面接シーンが繰り返されて、ドリスの番がくるが、彼はただ就職活動をしている証明がほしいだけだとぬけぬけとはなす。そのぶっきらぼうさが気に入られてフィリップは彼を試用することに。

一方でこのドリスの家のシーンも描写されるが、決して彼もバカではないし、実の母親ではない養母を大事にする様子がうかがえる。このあたり、アメリカ映画に描かれる黒人よりすっきりした顔立ちのドリスのキャラクターが実にいいのだ。

こうして、陽気な黒人と下半身不随の大富豪との心温まる物語が始まる。展開はよくあるパターンだが、アメリカ映画と違うシャレッ気があるのはやはりフランス映画のムードだといえます。美しいパラグライダーのシーンやさりげなく窓の外に移るエッフェル塔、柔らかいネオンの光など実に美しい。またドリスの弟たちも憎めないほどにかわいいし、不良の典型のようなすぐしたの弟も最後の最後でドリスを頼ってきた上に甘えてしまうかわいさもある。フィリップの一人娘の突っ張り少女も父の言うことに素直であるし、失恋して泣き伏してしまうあどけなさもある。こういう周辺の描写が心地よいほどの善良な画面で、全体がすっきりとまとまっているのはとにかくほっとするほどに映画の物語にのめりこめるのです。

そして何年もフィリップが文通をする一人の女性との淡い恋にも、一度は逃げてしまうフィリップを助けてラストは二人は見事ハッピーエンド。そこへもっていくドライブが冒頭のシーンなのである。良くあるパターなのに憎めない。ドリスを演じたオマール・シーが清潔感あふれる容貌であることもこの作品を垢抜けた完成度に仕上げているのではないでしょうか。とにかく、見てほしい一本といえるとってもいい映画でした。