くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バティモン5望まれざる者」「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」

「バティモン5 望まれざる者」

移民が正義でフランス人側が悪であるのではなく公平な視点で徹底的に描かれた見事なドラマで、所々に挿入される事件のエピソードが娯楽生を生み出して観客を飽きさせない作劇のうまさもあるなかなかの秀作。ただ、テーマは実に重いので、ぐったりすることも確かです。監督はラジ・リ。

 

俯瞰で捉えるカメラが次第に移民街バティモン5の一角に収束していって映画は幕を開ける。タイトルの後、この日、一棟の移民街の巨大な集合住宅の一棟が取り壊されようとしていて、市長がカウントダウンと共にスイッチを入れると、背後の建物が破壊され、崩れ落ちる。しかし、その瞬間、爆風と土煙がイベント会場まで迫り、一方市長は突然心臓麻痺でその場に倒れる。救急搬送される中、市長は亡くなり、副市長のロジェは、次の市長に小児科医のピエールを推薦、与党のバックアップもあり、ピエールは市長となる。

 

ここに移民居住区支援団体の会長で、市役所職員でもあるアビーは、祖母の葬儀に自宅に戻る。狭い廊下と階段を祖母の棺が降りていく描写で、この建物の老朽化を見せつける。アビーにはブラズという恋人がいてバイクでデートをするが、ブラズはすぐに切れる性格だった。ブラズの父は移民街で気のいい男で、中古車の修理などを路上でしていた。

 

市長となったピエールの元には、移民たちから昼夜を問わず嘆願が繰り返され、そっけなく答えると嫌がらせをされる日々にうんざりして、一方自身の政治への理想もあって、移民居住区バティモン5の早期治安回復と取り壊し立て替えの事業を進めるべく、未成年の夜間外出禁止や、路上での違法仕事の撤去などを強行的に進めていく。その中で、ブラズの父やブラズも一時警察に捕まったりする。

 

居住区の人と親しいロジェは強行的な市長の施作に抗議するも受け入れられなかった。度重なる強硬策に、アビーは自ら市長に立候補すると表明し、選挙活動を開始する。そんな時、共同住宅内で違法に食堂をしていた部屋が火事になる。それを機会にピエールは、倒壊の危険があると強制的に住民を追い出す行動に出る。アビーやブラズも家具なども持ち出せないままに追い出され、ホームレスのようになる。

 

それがイブの日だったこともあり、以前からキレやすかったブラズは、市長の家に押しかけ、家族を脅した上、家に火をつけるとガソリンを撒く。たまたまそのパーティにいたアビーの同僚のアニエスがアビーに連絡をする。

 

そこへ、市長とロジェが帰ってくる。ブラズが二人に襲いかかるが、すんでのところでアビーが駆けつけ、ブラズを落ち着かせてその場を去る。ブラズは自分のバイクにアビーを誘うが、アビーは後退りし、ブラズの元を離れる。アビーは一人、強制退去させられた共同住宅を眺めている映像で映画は終わる。

 

ドローンを使った大胆なカメラワークと共同住宅内の狭い廊下のシーンの対比が見事な上に、次々と事件が持ち上がる物語構成も上手い。そんな中で、必ずしも市長の行動が悪であるようには見えず、あくまで職務の理想を求める直向きさも描いている。対する移民側が必ずしも正義であるようにも見えないリアリティが実によく描かれている。大人の映画というのはこういうのをいうのだろう。見事でした。

 

「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」

とにかく長く感じた。伝えたいメッセージが見えなくもないのだけれど、知識人による上から目線的な見下げた感が強くて、理解するには自分のレベルが追いつかなかった気がします。監督はニナ・メンケス。

 

ヒッチコックの「めまい」の音楽に乗せて、映画というメディアが、いかに男性の眼差しで描かれているのかを検証していくニナ・メンケスの映画学校の生徒に対する講義的な映像で展開していく。名だたる名作のみならず、ホラー映画やB級映画なども交え、女性を映し出した画面の数々が、あくまで男性の女性に対する日常の視点を代弁しているかの解説が延々と続くのですが、今一つ説得力がなく、説明のテロップからも、評論家や、関係者のコメントからも、伝わる何物も見えない。それは自分が男性であるせいなのかどうかはともかく、もう少し、一般観客に訴える何かを感じられたら面白かった気がします。