くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「風前の灯」「トガニ 幼き瞳の告発」

風前の灯

「風前の灯火」
木下恵介監督作品の中で裏の傑作といわれている作品だが、なんとも珍品であった。

三人の泥棒が一軒の家に目星をつけて今にも押し入ろうとしている。ところがこの家、次々と人の出入りが多くて入れない。そんな外の状況とこの家の中の嫁と舅のドタバタに夫が懸賞で一等賞を当てたらしくその商品のカメラが5万円相当と言うことで嫁の妹や訳の分からない夫の戦友が訪ねてきて話がまどろこしくなってくる。

ドタバタ劇のようだが会話のテンポや映像の切り替えしに今一つリズムがなくて単調な繰り返しになるので後半が少ししんどい。自分の作品をちゃかしてみたりするお遊びもふんだんに取り入れられた脚本はさすがに木下恵介の遊び心を感じさせるのだが、傑作と言うより快作という感じですね。

田圃のど真ん中にある一軒家や丘からひたすら見据える泥棒たちの存在、次々と出入りする人々をコミカルに演出していく画面は独特のおもしろさがあるのですが、クライマックス、実は戦友が前科六犯の悪者で警察の捕り物シーンで幕を閉じるのはちょっと芸がなかった気がしなくもない。

とはいえ、これもまた多彩な作品の中の一本であり
これが木下恵介の才能なのである。


「トガニ 幼き瞳の告発」
いわゆる告発映画である。現実にあった聴覚障害者にたいする性虐待事件を元にした小説を原作にした作品で、この映画をきっかけに現実の事件が再度見直され法改正も行われたというのがキャッチフレーズにもなっている。

冒頭、一人の少年が列車にひかれるショットと主人公のカンが新しい職場にやってくるのとをかぶらせる。映画的な導入部であるが後はひたすらシリアスできまじめな映像が徹底される。

赴任初日からその不気味なムードを感じさせる映像と、ホラー映画のように校長とその双子のスタッフの存在、さらに明らかに異常な先生と校長の姉。このままホラー映画にしてもいいような舞台が設定され、一気に児童虐待の現実に物語は放り込まれる。

そして、真実の告白とその裁判が後半の見所になるが主人公のカンは終始せりふが少ない。ひたすら沈黙に近い態度で物語を牽引していく。

この手の作品で見る側が気をつけなければいけないのは一方的な視点にならないようにすることだ。もちろん、弱者を虐待した学校のスタッフたちは憎むべき存在であるが、裁判の終盤、障害児の親たちが示談に応じてしまう。ここでこの親たちを非難することは絶対にいけない。そうなるとこの作品が健常者の視点で捉える偽善映画になってしまうからだ。主人公カンの家庭も賄賂を使ってでも教職にありつかないといけないほど経済的に厳しいし、示談に応じた親たちにとって障害者である子供が全く負担がないと言うことはあり得ない。その現実にもしっかり目を向けなければいけないのである。

もちろん、弱者である障害者、ましてやその幼い子供たちを守る義務が存在するのは事実であるが、障害者をかかえる家族にとっては一方では障害者の存在は非常な負担であることには違いないのである。そこをはき違えずにこの作品のクライマックスの判決からエピローグは見る必要があると思う。

示談に応じた家族の老婆がみずぼらしくたたずむショットが挿入されている。このあたりの監督の視点は実にいいと思う。

単なる不正を正す作品として終盤スリリングな真相暴露のシーンなどを描かなかったのがこの映画の成功であろうか。重いし、まじめだし、しんどい映画である。韓国のむしばまれた社会を知る一方で韓国の強さもかいま見ることができた作品でした。