くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「二人で歩いた幾春秋」「アナザー Another」

二人で歩いた幾春秋

「二人で歩いた幾春秋」
木下恵介監督作品の中では決して傑作の部類には入らないが、見終わって涙が止まらない。まったくこの手の感動ドラマを作らせると実にうまいなと思ってしまう。

物語は戦後すぐに始まる。復員してきた主人公野中は山梨で道路工夫として働き始める。決して自慢できるほどの仕事ではなくある意味、当時としては見下されていたのではないかと思う。彼を支えるしっかり者の妻と一人息子のドラマでいわば「喜びも悲しみも幾年月」のパターンだ。

物語は昭和37年、息子が大学を卒業するところでエンディングになるが、それまでの苦労話が実に切々と描かれていくのである。自分の人生とやや年代はずれるものの先日急逝した父と自分が幾度となく重なってしまって映画を見ているより父の面影を思い起こしながら見ていたといっても過言ではない。

結局、何かにつけて自分の過去を重ね、父の姿を重ね、しまいには涙に暮れていた。

さて、冷静に映画を振り返ってみると、叙情的なショットはたくさんあるものの、際だった構図は見られない。原作にかかれた短歌が何度も挿入されストーリーが流れるあたりはちょっと技巧的ではあるものの、素朴なほどに一生懸命生きる夫婦の姿が実にストレートな感動を呼ぶ。

木下恵介の映画を見ると時にその時代が目に浮かんでくるが、この作品も当時の人々の生活が手に取るように伝わってくる。学歴のない親、それを気にして苦労して息子を大学に行かせようと躍起になる。当時、この映画を見た人々は自分の生活と重ね合わせ胸が熱くなったのではないかと思う。さりげなく写される景色の至る所に時代を感じさせるのである。時代のにおいを見事に映像にするというのも木下恵介の才能であるかもしれない。


「アナザー Another」
綾辻行人の原作が好きなのとちょっと気になっている橋本愛主演ということなので見に出かけたが、何ともひどい作品だった。

へたな自主映画やテレビドラマの延長のような大作を堂々と作るなと言いたい。それにあの稚拙なホラー演出は何だろうと思う。原作のミステリアスなムードが全く理解されていない演出と演技陣の理解不足がまるで素人ドラマのような二時間足らずに仕上がっていた。

いつも書くのですが、活字である原作と映像としての映画は別物である。しかし、それは原作を十分理解した上でオリジナリティあふれる映像に作り替えた場合の話だ。今回の作品のようにシネコン上映を前提にしながらどこかのミニシアターで上映されるような演出をするなと言いたい。

最初の犠牲者のシーンでわけありげなスローモーションと反復、無意味なクローズアップの後これみよがしに傘がのどに突き刺さる。これこそ見せ場といわんばかりだが、全く恐怖感がないし、ショッキングなカットにもなっていない。しかも、このシーンを最後にこの手の仰々しいショットさえ影を潜める。

死者はだれか?というミステリーとしてのおもしろさを全く映像にしていないためにハッキリ言って退屈。

主演の二人もぼそぼそとわざとらしくムードを作ってせりふをしゃべっているがなんの抑揚もないので手抜きにしか見えない。プロならもうちょっと物語を理解してから望めと言いたい。

ラストに至っては妙なCGでごまかした恐怖感はもう最高潮にお笑いになるし、その後のエピローグに至っては原作をバカにしているのかと言いたくなるのだ。

とまぁ、思い切りけなしてしまった。この映画におもしろさを見いだした人には全く申し訳ないと思う。実際そこそこ観客は入っていたのだから、この程度の作品でも満足できる人がいることは確かだし、そういう人はその人の感想で楽しめばいいと思うので、あくまで私の個人的な感想ですから理解してください。

とにかく、原作のおもしろさをもうちょっと映像にしてほしかったなぁ。残念と言うよりあきれてしまう一本でした。