くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ワンナイト、ワンラブ」「沈黙の声」

ワンナイト、ワンラブ

「ワンナイト、ワンラブ」
映画の中に夢を見つけられなくなった人は是非この映画を見てほしい。虚構か現実かわからなくなるほどの一体感に引き込まれる。ラストシーンを見れば、まるで本当に起こったことのドキュメントじゃないのとさえ我が目を疑うけれどもふと我に返り解説を読んでやっぱりフィクションだったと思う。その上で改めて感動がよみがえるのです。

実際にスコットランドで行われたロック・フェスティバルの最中にカメラを持ち込んで撮影した異色のラブストーリー。監督は「パーフェクト。センス」のデヴィッド・マッケンジーである。

イギリスのロックフェスティバルにやってきた人気バンドザ・メイク、ついたとたん、売り出し中のガールズバンドダーティ・ピンクスともめ事になる。そこへ通りかかった警備員風の出で立ちの黒人にザ・メイクのボーカルアダムとガールズバンドのボーカルモレロの手を手錠でつないでどこかへ走り去る。

はじめはすぐに解決するかに思えたが、どうにもその黒人が見つからないままにダーティ・ピンクスの出番が迫る。それぞれの彼氏、彼女も駆けつけるが事情にまきこまれ、フェスティバルの喧噪の中で時がたっていく。

ロックフェスティバルというドンチャン騒ぎの中の悪のりの展開に見える物語だが、何とも不思議なくらいにロマンティックなのである。美しい観覧車などの遊具のネオンがひかり、バンドの歌が次々と披露され、観客が騒いでいる。そんな傍らで進む不思議な物語はまさにファンタジーです。カメラはドキュメントタッチを狙うぶれたカメラワークではなく、あくまでしっかりと構えたアングルでとらえていく演出にこれは映画なのだとよけいにはまっていくのです。

それぞれの彼女、彼氏と別れ、最初は犬猿だったアダムとモレロはいつの間にか曳かれはじめる。そして、明け方、どろどろになった体を手錠でつながれたままシャワーを浴びるシーンはとってもセクシー。

やがて二日目。ザ・メイクのステージが近づく。あの黒人が現れ、手錠のキーはすでにアダムの相棒に渡したとつげ、彼はアダムに渡したと・・。誰もが酔った勢いに我を忘れていたのだ。そして、それに怒ったモレロはアダムから離れる。

一人になったアダムがザ・メイクのステージにたつ。一言謝りたい。そんなアダムはステージの上からモレロを呼ぶのだ。引き上げようと仲間たちといたモレロは自分を呼ぶ観客の声にアダムのステージへ向かう。そして二人はステージで抱き合って・・・

これが映画のロマンスですね。ハッピーエンドがわかっていてもそれをスクリーンの中でファンタジーとして見せてくれる。

エンドタイトルの最後に「モレロ!モレロ!」と叫ぶ観客の声が被さる。なんというサービスの良さ。これがエンターテインメントです。見逃さなくてよかった映画です。おすすめ。


「沈黙の声」
逃亡兵と若い女性の恋物語なのだが、その画面のすごさに圧倒される。

まるで西洋絵画を並べたような構図。ドアや壁の汚れさえも意図的につけられたのかと思えるような技巧的な美術。よく考えてみるとどこか非現実的な配置の室内の家具。舞台演出のごとく歩幅の一歩一歩、視線の動かし方までポージングによる演出が施されたかのような計算された演出。そして打楽器を多用した音楽がその映像にテンポを加えるとともにシュールで不気味なイメージを与えていく。

窓の彼方に見える人々の動きが手前の主人公たちの会話のシーンに映像的な効果を与える。しかも、どう見ても彼方の人物の動きも徹底的に計算されているかに見えるのである。

人物のフレームイン、フレームアウト、ドアを開いてはいるタイミング、画面からすっと消える人物。一瞬の間合いさえもくどいほどに演出がされた画面になっているのだ。ここにアントニオーニやヌーベルバーグの息吹が見え隠れするという解説も納得がいく。

列車から人々があふれてきて、少女が姉の名前を叫んでいる。そして見つかって、水を売る男から水を買おうとしたら一人の兵士がその水を横取りして買ってしまう。

この兵士が主人公で、この町で一人の女と恋をはぐくむが、ストーリー展開の中で次の女、冒頭の姉などと恋物語が語られていくが、正直映像演出に目がいってしまって、ストーリーが曖昧になってしまった。しかし、最初に書いたようにその映像の妙味は堪能できる一品でそれだけでも見る甲斐があったと思う。

結局、この兵士は追われているので、再び汽車に乗って去っていくところでエンディング。

ストリーテリングがやや弱い気がするので絶賛とはいえないが、必見の一本だった気がします。当時のヨーロッパの映画の一種の流行に挑戦した一本だと思う。おもしろかった。