くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夜ごとの美女」「本陣殺人事件」「さよなら、また明日」

夜ごとの美女

夜ごとの美女
ルネ・クレールらしい軽快なフランスコメディの秀作、とにかくテンポが抜群にいい。

出だしの部屋の窓のショットから始まって、ゆっくりとカメラが主人公クロードの部屋の中に。ピアノの教師でオペラの作曲家である彼には外の雑踏がいつも苦痛の種である。車の音、工事の音、子供の声、などなどがすべて彼の作曲をじゃまする。このあたりの派手な音の繰り返しなどの演出はトーキーへのこだわりのあるルネ・クレールらしい。

ピアノを教えにいったある家で思わずうたた寝をした彼はオペラが全盛だった時代の夢を見る。そこで彼はオペラの作曲家で、美しい美女に見初められて華やかな生活があるのだ。

こうして始まる物語。現実の喧噪から逃れて音楽が至高の遊びだった時代へ戻りながら華やかな音楽界で楽しい日々を過ごし、美しい女性と恋に落ちる。ジェラール・フィリップに女性は必修である。

この繰り返しのリズムが実に楽しくて、音へのこだわりのあるルネ・クレールの感性と映像感覚がみごとにいかされ、ハイテンポに物語が進んでいくのは心地よい。

アメリカンコメディに見るスラップスティックなところは無く、あくまで洒落た感じで繰り返しのドラマが進行。カメラのカット編集もリズミカルで、過去のシーンのちゃちなセットもかえってファンタジックにあえ見えてくるから不思議である。

結局、過去の世界でも何らかの障害がおこり、美女との恋も実らぬままに現実に戻ると、実際に彼の曲がオペラ座で上演される下りとなってエンディング。わかりやすいドラマであるが、娯楽映画としての体裁はしっかりと撮られているところがさすがに名匠の力量を見せられました。楽しい一本でした。


「本陣殺人事件」
横溝ブームに火をつけるきっかけになった高林陽一監督作品。横溝シリーズというと市川崑監督作品がその定番のようになったが、高林陽一監督の映画にもまた市川崑監督とは違った様式美の世界が展開する。

水しぶきか花火かわからない火花のようなショットで幕を開けるこの物語は横溝正史原作らしく山深い旧家で起こる殺人事件である。赤を基調にした美術セットと、光を多用した演出、時にサイケデリックな画面を駆使して描く高林陽一の演出はスタイリッシュに見える市川崑作品とは違って非常に情念の世界が沸き上がる感じである。

妹役の鈴子の存在が不気味な中に不思議なムードを生み出しながら、自分の純粋を貫いて自殺していく賢蔵の姿を研ぎすまされた愛情劇として描いていく。もちろんトリックの説明も見事にそのクライマックスに挿入し、探偵小説のおもしろさも堪能してくれるあたりなかなかのものです。

金田一耕介が鈴子の葬儀の列に遭遇するファーストシーンに始まり、婚礼のシーンから殺人のシーン、謎解きのシーン、と手際よく組み立てられた脚本も見事で、決して飽きさせないストーリーテリングを見せる一方で真っ赤な彩りと水車や琴の弦の音も効果的に利用した終盤のシャープな展開も美しい。

原作のどろどろした世界を映像としてオリジナリティあふれる一つの作品に仕上げた秀作でした。


「さよなら、また明日」
灰とダイヤモンド」でマチェックを演じたズビグニエフ・チブルスキーが脚本を書いたラブストーリー。ところどころにヌーベルバーグ風の演出が施されている。

劇団員のヤチェックが人形に話しかけているところから映画が始まる。以前知り合った女性とのひとときの恋物語を語り始める。

橋の袂で川を見ているヤチェックに一人のフランス人女性マルゲリータが話しかける。その出で立ちからしてヌーベルバーグ風で、犬をつれていてショートカットでキュートな女性なのだ。

彼女はフランス語を話し、どうやら裕福なようで豪勢な家に住んでいる。テニスをする約束をしたヤチェックだが、そんなものしたことがない彼は散々なことに。そのあともどうにもちぐはぐな交際しかできない。海辺で走り回るシーンなどまさにヌーベルバーグである。

結局、彼女はヤチェックに手紙を残してある朝去ってしまう。残されたヤチェックが果たしてあれは夢だったのかと回想してエンディング。

甘ったるい音楽が流れ、夜の町に若者どうしで戯れるシーンや教会で結婚のまねごとをするシーンなどポーランド映画にしてはちょっとしゃれたシーンが続くが、全体にそれほど秀でた作品とは思えなかったが、それなりにおもしろい映画でした。