くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「満員列車」

kurawan2015-05-13

アメリカのスラップスティックコメディというタッチの風刺劇で、典型的な市川崑演出、和田夏十脚本というコンビ作品でした。

映画は、有名大学の卒業式、まだ明治のはじめで、学生も数えるほどしかいない。それが大正、昭和と進むとみるみる卒業生が増え、講堂が火事で焼けて雨の降る中、傘をさしての卒業式となった場面の冒頭シーンが実にすばらしい。

傘だけが画面を埋め、やがて雨に濡れながらたたずむ学生たちの中に、主人公民雄がたっている。

コミカルな写真撮影のシーンから、無事駱駝ビールに就職した主人公が、颯爽と初出勤しようと出かける場面へ。

バスが交差するシーンから、満員電車に押し込まれる場面へ、軽快なテンポで一気に物語に入り込んでいくが、その後、作品全体としては、やや、テンポに乗り切らない出来映えになってしまう。

三人の恋人に別れを告げ、会社に入ったものの、サラリーマンとして、のほほんと仕事をこなすように指示される下りから、隣人が突然の死、工場の音に反応して痛む歯、意味不明な会社の医務室の医師、さらに、そこへ、父から、母が発狂したと連絡が入る。

母の病状をみるために、大学の同僚で精神科の医師をしている男に依頼。

ストレスがたまる主人公に痛みは、歯か膝へ、医師に打ってもらった注射に苦しんでいて夜が明けると、白髪に変わっている。そこへ、父が発狂して入院したと母がやってくるから、もういったいどうなっていることか。

母の発狂に対処した大学の同僚の精神科の医者は、父の名声を利用して精神病院を建てさせようとし、それを非難した主人公の目の前で、三段跳びをしてバスにひかれ死んでしまい、自分は電柱にぶつかって、31日意識を失い、その間に会社は首、そのあと小学校の小使いになり、学歴を偽っていたからとそれも首になって、小学校の隅の空き地でバラックをたてて、母を招いて、進学塾をはじめる。

小学校の入学式で、校長が、前途揚々だという訓辞を垂れてエンディング。

全編、スラップスティックなコミカルな動きと展開の連続に、高度経済成長期の日本を痛烈に風刺する物語が、なかなかおもしろいし、書き割りを多用した画面づくりが、ちょっとした実験精神旺盛な演出で楽しい。

とにかく、ユニークな映画でしたが、市川崑の映画としては、中レベルの一本だった気がします。