アメリカのスラップスティックコメディというタッチの風刺劇で、典型的な市川崑演出、和田夏十脚本というコンビ作品でした。
映画は、有名大学の卒業式、まだ明治のはじめで、学生も数えるほどしかいない。それが大正、昭和と進むとみるみる卒業生が増え、講堂が火事で焼けて雨の降る中、傘をさしての卒業式となった場面の冒頭シーンが実にすばらしい。
傘だけが画面を埋め、やがて雨に濡れながらたたずむ学生たちの中に、主人公民雄がたっている。
コミカルな写真撮影のシーンから、無事駱駝ビールに就職した主人公が、颯爽と初出勤しようと出かける場面へ。
バスが交差するシーンから、満員電車に押し込まれる場面へ、軽快なテンポで一気に物語に入り込んでいくが、その後、作品全体としては、やや、テンポに乗り切らない出来映えになってしまう。
三人の恋人に別れを告げ、会社に入ったものの、サラリーマンとして、のほほんと仕事をこなすように指示される下りから、隣人が突然の死、工場の音に反応して痛む歯、意味不明な会社の医務室の医師、さらに、そこへ、父から、母が発狂したと連絡が入る。
母の病状をみるために、大学の同僚で精神科の医師をしている男に依頼。
ストレスがたまる主人公に痛みは、歯か膝へ、医師に打ってもらった注射に苦しんでいて夜が明けると、白髪に変わっている。そこへ、父が発狂して入院したと母がやってくるから、もういったいどうなっていることか。
母の発狂に対処した大学の同僚の精神科の医者は、父の名声を利用して精神病院を建てさせようとし、それを非難した主人公の目の前で、三段跳びをしてバスにひかれ死んでしまい、自分は電柱にぶつかって、31日意識を失い、その間に会社は首、そのあと小学校の小使いになり、学歴を偽っていたからとそれも首になって、小学校の隅の空き地でバラックをたてて、母を招いて、進学塾をはじめる。
小学校の入学式で、校長が、前途揚々だという訓辞を垂れてエンディング。
全編、スラップスティックなコミカルな動きと展開の連続に、高度経済成長期の日本を痛烈に風刺する物語が、なかなかおもしろいし、書き割りを多用した画面づくりが、ちょっとした実験精神旺盛な演出で楽しい。
とにかく、ユニークな映画でしたが、市川崑の映画としては、中レベルの一本だった気がします。