くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ラッシュ/プライドと友情」「蜂の巣の子供たち」「その後

ラッシュ

「ラッシュ プライドと友情」
賛否が分かれているようでしたが、この映画かなりの秀作だった気がします。なんといっても、カメラのリズムが抜群にいい。細かいカットで、クローズアップ、ロングショット、ハイスピード、スローモーションなどを組み合わせ、緊迫感とドラマチックなムードを見事に映像に置き換えていく。

この手のレース映画では「栄光のル・マン」があまりにも有名ですが、あちらは、どちらかというと耐久レースなので、スローなドラマになる。一方こちらは、F1という超ハイスピードなレースの世界に人間ドラマを盛り込み、さらに友情と愛情、夢、ロマンをてんこ盛りにした脚本のうまさが、近年のレース映画では最高のできばえになっていると思う。

物語は1976年のF1ドイツ戦、主人公でもあるニキ・ラウダが事故を起こして瀕死の重傷になるレースである。カメラは、エンジンの熱気でゆがむ地面の揺らぎをとらえ、ピストンの不気味な動き、レーサーの息づかい、観客の怒号を複雑に組み合わせた後、物語は6年前、F3レースのスター、ジェームズ・ハントが後のライバルニキ・ラウダと出会う場面に移る。

こうして、ニキ・ラウダの大事故までの物語を、スピード感あふれるストーリー展開と、CGを多用したレースシーンの緊迫感あふれる映像で描いていく。文章を完全に映像の世界に置き換えたという感じのロン・ハワードの演出が秀逸である。

緻密な計算の中で、一歩一歩実績を積むニキ・ラウダと、天才的な技術で、頂点に君臨していくジェームズ・ハント。それぞれに、それぞれの人生があり、レースに求め、得るものの目的も違う。しかし、その共通するレースに対する情熱が、細かいエピソードの中に描いていく脚本もうまい。

ドイツ戦での大事故は後半のクライマックスにし、さらに、その後の復帰からラストの日本グランプリに持っていくまでも、よけいな間延びシーンをおかず一気に締めくくる。エピローグの、二人のその後もさらっと駆け抜ける演出が実に好感で、実話という認識をしっかりととらえ、劇的な感慨を生むようなラストにしていない点もうまい。

大傑作とまではいかないまでも、非常に、楽しめる人間ドラマの秀作だったと思います。印象に残る一本でした。


「蜂の巣の子供たち」
下関から大阪の見かえりの塔まで、戦災孤児8人と復員兵のロードムービーという、非常にシンプルな作品ですが、絵づくりが抜群に美しい。手前に配置したがれきのカットの向こうに見せる子供達の生き生きした姿、破壊された石段の下から見上げる人物のカットなど、目を見張るほどに見事である。

しかも、清水宏得意の、見下ろすような俯瞰の移動カメラ、友達を背負って山を登っていく少年のシーンなど、遠景からバストショット、クローズアップと切り返すカメラの絶妙の編集にうならせるものがあります。

先日みた見かえりの塔のある感化施設にたどり着いてみんなが出迎えてのラストシーンとなりますが、ラストのシンメトリーな平面カットは、清水宏得意の構図です。

地面すれすれに構えたカメラで、駅のホームから飛び出す子供達を見つめるカットから始まるこの作品は、随所に、すばらしいカメラ演出が施されている。

現代でさえも珍しい、日本映画のロードムービーですが、行き先先で働きながら、目的地を目指す子供達の姿の生き生きした様子が、本当に見事です。

8人の子供達それぞれは、細かい演出はなされていないのですが、集団をとらえる演出がうまいので、個人個人に気を向ける必要がない。全く、この手の作品は清水宏は本当にうまいなと思います。


「その後の蜂の巣の子供たち」
前作を受けて、同じキャストで、舞台を熱海に移して描く子供達の物語。

蜂の巣の活動が雑者に取り上げられ、あちこちから、施設に入れてくれという子供達や、世話をしたいという大人達が集まってくる姿の中に、子供達の生き生きしたドラマを描いていく。

もちろん、素人芝居なのですが、ドキュメンタリーのようなおもしろさを生み出す清水宏の演出が見事で、独特の世界を生み出していく。

ストーリーというほどのものはなく、ただ、蜂の巣の生活がみずみずしいタッチで描かれる様は、一種のオリジナリティの結晶のようでもある。

前作で、死んだしんちゃんという子供の話が、実はフィクションであった、などというせりふとかも挿入され、はたして、今みている映像が、実話なのかフィクションなのかという微妙な感覚にとらわれていく。

知り合いを施設に入れたものの、盗みを働かれ、責任を感じたしんちゃんが、熱海、大阪、神戸と逃げた友達を探しに行くエピソードがクライマックスになり、撮影当時の古い大阪の町並みなども写されるので、それだけでも値打ちのある一本で、前作から登場の大阪弁の男の子が、絶妙の味を出していたり、とにかく、本当におもしろい。

素人をここまで生き生き描けるのは、やはり清水宏の才能と呼ばざるを得ませんね。見事な一本でした。