くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「桜の森の満開の下」「写楽 Sharaku」

桜の森の満開の下

坂口安吾原作の伝奇ホラーですが、物語の展開のリズムが悪いのと若山富三郎がミスキャストで、どうにもしんどい映画でした。桜吹雪を巧みに使った様式美の世界は美しいのですが、都のシーンがいかにもスケールが小さくて全体が小さくなった感じです。監督は篠田正浩

 

山奥に住む山賊の男が、今日も、通りかかった女と侍従を襲うところから映画は始まる。今でこそ桜の木の下では宴会などをするがこの時代は桜の満開の下では気が狂うとされていたというナレーションが冒頭にかぶる。

 

山賊の男は襲ったものの、その女があまりに美しいので、自分の女房にするとさらってしまう。ところがこの女、この山賊を顎で使い、自分をおぶらせ山道を走らせる。そして山賊の小屋についたものの、これまでさらった女たちを一人を残して全員切り殺せと命令する。

 

間も無くして女は山の中の生活に飽き、都へ移り住み、山賊に都の道具や雅な人の首を取ってくるように命令をし始める。山賊は言われるままに都の人々の首をとっては女の元に届ける。

 

しかし、都の生活に疲れた山賊は、女を連れて山へ戻る決心をする。女はまた戻ってくるつもりで山賊に従い、又、山道でおぶってもらう。山賊は気が狂うとされる満開の桜の下を通ってみるが気がつくとおぶっていた女は鬼女に変わっていた。山賊は狂ったように振りほどき鬼女の首を絞めるが気がつくと鬼女は女房に変わっている。山賊は嘆き苦しみ、やがて桜吹雪の中消えてしまって映画は終わる。

 

満開の桜に花吹雪が舞うシーンは圧巻で見事ですが、都でのシーンにもう少し不気味さが描けていれば好対照に仕上がった気がします。しかもぜんたいのストーリーの組み立てがうまく噛み合っていないので、緩急が見えずちょっと退屈でした。

 

写楽Sharaku」

40年ぶりくらいの再見。初めて見た時も思ったが、全体が一つの絵のような仕上がりになっている点では見事な作品でした。江戸の風情、人々の姿が様式を徹底した演出で描かれています。ただ、一本筋の通った人間ドラマが描き切れていないために、図太い作品にならなかったですね。監督は篠田正浩

 

歌舞伎の舞台シーンから映画が幕を開けます。とんぼ技が得意なとんぼという若者が、看板役者のはしご登りを支えていてはしごが足に乗ってしまい足を潰してしまうところから物語が始まる。

 

やがて、芸人集団のところに転がり込んだとんぼだが、なぜか絵心がありつい筆を動かしている。ここに、喜多川歌麿を世に売り出した鳶屋という目利きの商人がいる。根回しをして禁制の本など出していたが、どこから訴えられたか捕まり、店は傾く。

 

歌麿もよそに引き抜かれ、新しい絵師を探していてとんぼに出会う。そして東洲斎写楽として世に売り出すが、あまりにリアルな役者絵で世間から賛否両論になる。しかし、その才能を知るものは知っていた。

 

歌麿写楽を兼ねてより気のあった花魁と逃げさせるが、すぐに捕まり、元の木阿弥になって映画は終わる。どうも写楽が弱いというのがあります。真田広之は決して下手な役者ではないけれど、まだこの頃はそれが開花し切れていなかった感じです。

 

クオリティの高い作品ですが、とびきりの一級品にはなりきれていない気がします。