くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「故郷よ」「ザ・フューチャー」

故郷よ

「故郷よ」
チェルノブイリからわずか3キロ野間地プリピャチを舞台に描かれるその時、その後の物語と、書くとなんだかドキュメンタリー調のメッセージ映画であるかの印象を受けますが、そんなことはない、非常に映画としての映像にこだわった作品であることに驚きました。

出だしからカメラが非常に美しい。自然をさりげなくとらえるショットや雨や風、雷の音に変化する景色が繊細なカメラワークでとらえられていくのです。そして、そんな自然に囲まれた美しい町プリピャチの人々の生活がだんだんと物語の中に映し出されてきます。後で調べたらカメラを担当したのはテオ・アンゲロプスの「霧の中の風景」なども手がけたヨルゴス・アルヴァニテスでした。きれいなはずです。

原子力技師のアレクセイは息子ヴァレリーと川岸に木を植える。アーニャはいままさに結婚式のまっただ中。しかし、空には不気味なほどの雷鳴、激しすぎる雨が降ったりやんだりし始める。川岸に魚が浮かび、鳥がざわついて空を舞う。森林警備に向かう男の前に軍隊の検閲が。美しい自然の景色を描きながら不気味な雰囲気が音もなく忍び寄る導入部が実に見事なくらいの恐ろしくそして美しい。

そして、1986年4月29日、事故の日、アーニャの夫は式の途中で山火事だと仕事に呼ばれる。突然真っ黒な雨が降る。アレクセイのもとに発電所からの事故の知らせ。まもなくして住民避難の警報。そして物語は10年後へ。

チェルノブイリツアーのガイドをして暮らすアーニャ。居住禁止のプリピャチに戻ってきて懐かしい家を探すヴァレリー。プリピャチをめざすアレクセイたちの現在が淡々と描かれる。

町ゆく人に罵倒されたり、シャワーを浴びているアーニャの髪の毛が抜けたり、学校でヴァレリーがいじめられたり、人のいないプリピャチの家に勝手に住んでしまう難民の姿やプリピャチに戻って暮らす老人などがまるでさりげない当たり前の景色の一部として語られる様は切ないほどにもの悲しいのだが一方で故郷というものへの人間のどうしようもない感情が見事に画面から伝わってくるのです。

一度はオデッサで結婚して暮らそうと誘われたアーニャも彼氏と別れプリピャチに戻ることを決意。ヴァレリーも学校の発表でチェルノブイリで起こった10年前を発表。それぞれがそれぞれの思いで故郷を捨てず、そして悲惨な事故を語る語り部としての運命を受け入れるラストは力強くも感動的でもあるのです。

走り去るバスの轍に汚れた汚水が漂っていくショットでエンディング。確かにメッセージ性が皆無とはいいませんが映画としての完成度もしっかりとしたレベルになっていると思います。いい映画でした。


「ザ・フューチャー」
ミランダ・ジュライという女優さんが自ら脚本、監督、主演つとめた作品で、前作がカンヌで評価された人らしいのでちょっと期待で見に行きましたが、私の感性がついていけないのか映画としてのリズムが乱れている映画だったのかわからない一本でした。

様々なパターンのシュールな映画にも触れてきたつもりですがこの作品はどうしようもなくついていけなかった。最初はおもしろそうな導入部と展開にちょっと身を乗り出しかけたのですが中盤から妻の不倫の話に進んでいくともうだめでした。

タイトルが終わるとソフィとジェイソンの夫婦がノートパソコンを持って向かい合って座っている。お互いにふざけているようないないような乾いた会話の後時間を止めてみせるというジェイソンのせりふに二人は止まったふりをする。時々片足に包帯を巻いた猫の足が出てきてなにやら物語らしきものをナレーションする。

二人は一匹の猫をシェルターと呼ぶところに預けていて、そこに引き取りに行くが後一ヶ月先だと断られる。そして、すこしでも引き取りの日に遅れたら抹殺するといわれる。

そして、その一ヶ月を待つ間二人はこれまでのしがらみを捨ててフリーになろうとする。ジェイソンはパソコンのサポートの仕事をやめ、ソフィもダンスのインストラクターの仕事を辞める。このあたりまではいいのだが、ある男が書いた娘の絵を買ったその中年男と連絡を取ったソフィはその男とSEXする。この告白を妻に迫られそれをジェイソンは頭を押さえて時間を止める。空に光る夜の月とジェイソンの会話、ソフィの時間だけが流れるショット、道にTシャツが這ってきてソフィの男の家に。なにがどうという展開の合間に猫のナレーション。

結局、猫の引き取りに間に合わず猫は殺されてしまい、二人も破局?した感じでエンディング。

二人の愛情の絆の象徴が猫だったのか?倦怠にかかった夫婦の微妙な心理を描いた物語なのか?どこからとっかかりをみればいいのかわかりにくい一本で、画面のテンポが微妙によくないために展開に飽きてくるのである。このミランダ・ジュライという人の感性についていけないのか、この作品自体に問題があったのか?最初にも書いたがそんな感想しか書けない映画でした。