くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フライト」

フライト

映画雑誌の評価がやたら高いのがある意味納得できる秀作でした。ただ、いまどきアル中とか薬中の話しかなと思えなくもない。それがおそらくアカデミー賞の作品賞に絡んでこなかった理由でもあると思います。

映画の解説にはヒューマンミステリーというジャンルわけされているが、この映画は”運命”の物語であると思います。今、この瞬間にこの場所にいることが運命であり、形而上学的にいえば神による定めと呼ぶべきことなのだと映画はしめっくくっている気がする。

開巻いきなり主人公ウィップは一人の女性とベッドの中で朝を迎える。全裸で立ち居振る舞いする女性にぼんやり見入っていると次のフライトの時間が迫ったウィップが起きる。そして目を覚ますべくとった行動はコカインを一気に吸い込んで俯瞰で捕らえるカメラに向かって「ハッ!」と視線を送るショット。この冒頭がこの物語のじめっとしかねないムードを吹き飛ばして始まる。そして背後にややモダンで派手な音楽を効果的に挿入し、サスペンスながら内へ内へ引き込んで行く演出は行わないことを徹底する。

飛行機の操縦室に座ったウィップはどう見ても陽気でハイである。それが性格的なものかと画面を見ている私たちは平然とジュースにウォッカを混ぜてそのジュースを持って操縦席に戻るショットでこの人物の姿を垣間見る。そしてそのあといきなり飛行機が墜落寸前になるというシーンへと一気に突入するのだ。

雨の中の離陸、嵐と乱気流の中を脱出する破天荒な操縦シーンは彼がベテランパイロットであるというのと性格的に荒削りで粗野であることを見せる。横の副操縦士がいかにもまじめ一本の人物に見えることから好対照な立位置である。そして、居眠りしていたウィップが到着する飛行場の近くにきて副操縦士が声をかけたとたん飛行機は突然操縦不能に。ハイスピードな映像と描写で墜落寸前で背面飛行、草原への不時着へと進む。そしてベッドの中のウィップへ。

一時は英雄に祭り上げられるが、周りの情勢はじわじわと機器異常より人的事故へと流れ始める。そして、ウィップが実はアル中で薬中であることがじわじわと表になってきて、一方でそのことを隠蔽する動きが出始め、ウィップ本人もその流れに身を任せ始める。病院で知り合ったヘロイン中毒治療のニコールにも去られ、元妻にも息子にも疎まれ次第に追い詰められて行く。意識不明だった副操縦士が目覚めたということで見舞いにいったウィップに彼は言う。「これが運命だった。あそこにあなたがいることは神が示した運命だった・・・」と。

結局、最後までとぼければすむところを最後の聴聞会でアルコールを飲んでいたことを自白しウィップは刑務所へ送られることになる。ここで冷静に考えればおかしい。あの操縦があってこそ乗客のほとんどが助かったのである。だから彼はたたえられるべきだ。シカシ、ロバート・ゼメギスはそして原作者は操縦不能に陥る飛行機に乗った人々を助けるために、たまたまウィップはあの朝寝不足のまま操縦しあの飛行機に乗り込んでいたことも全て運命の流れのひとつとせいて定められていたのだといいたいのだろう。だからうそをついて逃れることは間違いなのだ。映画はそう終わらせるためにウィップに最後の最後で自白させ、罪に服させる。罪に服している彼の元に息子が訪ねてきてハグしてエンディング。う〜んこれは不要だったかもしれない。

前半のスリリングな着陸シーンから次第にウィップの立場が変わっていくサスペンスフルな展開。さらに、人間の尊厳の本質を示す終盤とドラマティックな展開は実に見事でその複雑なムードの展開をデンゼル・ワシントンは見事に演じている。作品自体が非常に深みのあるドラマであるのに背後に独特の音楽センスの曲が散りばめられ、ウィップの友人のハーリンのような飛んでる男を登場させて重々しいおとなのサスペンスを若者向きに引き摺り下ろすような演出を施す。この奇妙な映像作りがやはりロバート・ゼメギスの個性ではないでしょうか。その意味でなかなかの作品でした。