「非常宣言」
相当に面白い。一昔前のB級パニック映画の一級品という出来栄えの娯楽映画でした。細かい部分の詰めが甘いのと、古臭いご都合主義で物語が展開するので、緊迫感は半端なく面白いのですがリアリティに欠けたのが本当に残念。カンヌを目指すのかエンタメ映画の一級品を目指すのか、ラストの処理で迷った感じがして、不完全燃焼に終わってしまいました。それでも、娯楽映画としてはずば抜けて面白いし、二時間余り全く退屈せずに引き込まれてしまいました。監督はハン・ジェリム
飛行機恐怖症のイェヒョクは、娘と一緒にハワイホノルルを目指して飛行場へやってきた。娘のアトピーの治療も兼ねてなのですが、空港でいかにも怪しい若者が近づいてくる。その前に、この若者はチケットカウンターで訳のわからない質問をしている場面があるので、つまりこいつが犯人だと観客は知る。
一方、一人のベテラン刑事ク・イノが、15日の旅行でこれから旅立とうとする妻とさりげない会話の後送り出す。職場へ行ったイノ刑事は、悪戯投稿で、飛行機テロが行われるという情報を聞くが、署員誰もが冗談だと相手にしていない。間も無くイェヒョクらの乗った飛行機が飛び立とうとしている。テンポのいい曲に乗せるこのオープニングが上手い。イェヒョクは、機内にさっき空港で近づいてきた若者が乗っているのを目撃し不安になる。
そんな頃、イノ刑事は、相棒と、飛行機テロの情報を集めていて、たまたま聞いた情報からあるアパートの一室にやってくる。中に入ると死体があり、鑑識によって、物理的に殺されたのではなく、ウィルスか何かの感染で死んだことが判明、しかも、動物実験をしたビデオ映像が発見されるに及んで、飛行機テロが現実だと判断する。
そんな頃、飛び立った飛行機の中で、怪しい若者は脇の下に隠し持っていたものをトイレで噴射する。どうやらウィルスが仕掛けられていたらしく、間も無くトイレに入った男性が急死してしまう。地上ではイノ刑事の訴えから韓国政府の国土交通大臣スッキが指揮に当たり始めていた。イノ刑事の妻もこの飛行機に乗っていることが確認されて、イノ刑事は、ますます焦り始める。機内では次々と感染者が出て命を落とし始めパニックになってくる。乗客の撮った映像がネットに流れたことから、一気に機内の状況が拡散、事実確認を急ぐ政府も慌てて公式発表する事になる。
機長も感染して亡くなり、あわや墜落という危機を救ったのが、副操縦士のヒョンスと、過去の事故で飛行機の操縦ができなくなったイェヒョクだった。こうして一昔前のパニック映画を思わせるご都合主義によって舞台は整う。過去の事故でヒョンスは、イェヒョクを恨んでいたという背景も語られるがあっさりイェヒョクのサポートを受け入れていくのがちょっと甘いのですがいいとしましょう。
地上では、犯人は製薬会社の元研究員ジンソクであることが判明するが、間も無く彼も感染で死んでしまう。イノ刑事は、ジンソクが勤務していた製薬会社に秘密があると強引に捜査しに行こうとするが、会社側は頑として受け入れない。かつて、ウィルス研究をしていたジンソクは、事故で研究員を亡くし、その際責任を押し付けられた恨みで起こしたらしいと判明、その時の生き残りの研究員を訪ねたイノ刑事は、製薬会社に抗ウイルス薬があることを突き止める。まさに段取り展開。しかし、正式な令状が出ないまま、前に進まない。スッキ大臣は公権によって強引に製薬会社に迫り、抗ウイルス薬を手にれる。
一方、飛行機は、ホノルル着陸で治療を希望したがアメリカが拒否ししたため引き返していた。しかし、ヒョンスは、自身も感染していることと、燃料も少ないことから、成田空港への緊急着陸を強引に進める。そして、全てに優先する「緊急宣言」を発するが、日本政府も着陸を拒否し、自衛隊による威嚇を行う。飛行機は仕方なく韓国へ向きを変える。ヒョンスはもはや操縦できない状態となり、イェヒョクが韓国の空港へ飛行機を飛ばす。燃料あったんかいというツッコミはさておいて、ここからが、この映画のメッセージなのだろう。
韓国に近づいた飛行機だが、いざ着陸となったところで、今度は韓国世論はウィルスを恐れて着陸反対を唱える。機内では広がったウィルスはすでに変異していて抗ウイルス薬は効かないのではという疑念が広まったためである。行き場を失った飛行機は、最後の決断をせまられる。乗客の中にも、着陸してウィルスを撒き散らすよりはこのまま去ったほうが良いという結論となる。
そんな頃、イノ刑事は、自らを実験台にして、ウイルスに実際感染した上で抗ウイルス薬を打ち、効果があることを示そうとする。ところが飛行機は通信を絶って飛び去ろうとしていた。間一髪、イノ刑事の容態が安定し、抗ウィルス薬の効果が出る。慌ててスッキ大臣は飛行機を引き換えさせようとする。乗客の携帯に連絡をし、イェヒョクに繋いで飛行機は引き返す事になる。あっさりとした展開はやや雑。
後日、スッキ大臣は裁判所で証言していた。果たして判断が正しかったかの裁判である。イノ刑事は快復後の後遺症で自力呼吸ができない状況で、イェヒョクらも招待されたパーティに来ていた。こうして映画は終わる。
甘い。クライマックス、飛行機からの最後のメッセージと通信を絶ったタイミングから、イノ刑事が快復してハッピーエンドにした強引さが本当に残念。結局エンタメ映画にすることを選んだ感じです。また、機内にテロ行為が行われたにもかかわらず、機長からの乗客説明もなく、錐揉み状態になっても酸素マスクが降りてこないし、些細な部分の描写が実に弱いので、緊迫感が圧倒的なのにリアリティが伴わず軽くなってしまった。アメリカや日本、さらには本国で、着陸拒否することで、映画のメッセージが集約していくクライマックスをあっさりハッピーエンドにしたところに制作側の金算用が見えた気がしました。カンヌ出品を前提にしたのならもっとシビアなラストにすべきだったかと思います。でも、最高に面白かった。
「近江商人、走る!」
小品で、たわいもなく、リアリティもクソもない映画なのですが、マンガチックにテンポよく展開する様がとっても心地よくて、しかもそれほどの名優を揃えたわけではないけれども、しっかりとした滑舌と台詞回しの音色が耳触りが良くて、楽しめました。原作があるゆえか、終盤までの小さなエピソードも面白いし、最後の見せ場もそれなりに楽しい。エンディングの古臭い時代劇調もあれはあれで爆笑できる。傑作でも秀作でもないけれど、面白い作品でした。監督は三野龍一
百姓の銀次の幼い頃から映画は幕を開ける。父は病に倒れ、野菜を売りに街へ行った銀次は、薬売りの喜平と知り合う。そこで助けてもらい、野菜を売って帰宅すると父は亡くなっていた。一人野菜を売り歩く銀次だが、侍とぶつかったことで危うく斬られそうになる。そこへ駆けつけた喜平に助けられ、喜平の言葉で、大津の米問屋の大善屋を訪ねる。丁稚になった銀次はみるみる頭角を表す。
一方、大善屋伊左衛門を貶めようとする、いかにも悪者という下っ端役人奉行はライバルの米問屋の主人平蔵と画策して、伊左衛門に千両の保証人にし、平蔵は夜逃げして、千両の負債を伊左衛門に被せる事に成功する。一ヶ月後の返済を前に店をたたむと諦めかけた伊左衛門に、銀次は、これまで知り合った大工職人や眼鏡売りらと協力して、堂島の米相場を瞬時に知る方法を考え、大津の米相場との差額で儲ける裁定取引を思いつく。
思惑通り収益を上げていくのだが、銀次と同じく丁稚奉公をしている蔵之介は平蔵の息子で平蔵から大善屋のスパイをするように言われていた。千両の負債の件も最初から蔵之介は知っていたのだ。一時は、銀次の作戦を邪魔するようになってしまうが、銀次に諭され、罪悪感もあって父平蔵に反抗、元の役割をこなそうとする。折しも、米を積んだ千両船が沈む事故が起こり堂島の米相場が急騰する。最後の賭けで銀次は大量の米を大津で買い付け、見事千両の収益を上げ大善屋を救う。ところが、目安箱にこの作戦を密告したものが現れ、奉行が銀次らを取り押さえる。
伊左衛門や銀次が白州に引き出され、奉行に責められ、あわやというところで、大津藩主が現れ、奉行の悪事が明るみになり大団円と、昔懐かしい時代劇調で映画は終わる。実は藩主の密偵が喜平だったというどんでん返しもすごく懐かしい雰囲気でいい。
終盤はややテンポが悪くなって息切れ感が見えるのですが、そこまでのテンポが実にいい。主演を務めた上村侑以下の役者たちの台詞回しがとってもは切れ良くて、物語に活気が生まれてくる。たわいのない映画とはいえ、大事に見ておきたい一本でした。