くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ベラミ 愛を弄ぶ男」「新宿泥棒日記」

ベラミ

「ベラミ 愛を弄ぶ男」
モーパッサン原作のスキャンダラスな物語、その配役が抜群にすばらしい。

美男子で、男を武器にしていく主人公ジョルジュにロバート・パティンソン、金持ちだが素直でかわいらしい、最初の女性になるクロチルドにクリスティーナ・リッチ、背後にミステリアスな謎を持った、才女マドレーヌにユマ・サーマン、そして、貞淑故に不満が募り、いったん爆発するとおぼれてしまう女性ヴィルジニにクリスティン・スコット・トーマス。それぞれの配役の個性がそれぞれの俳優の個性と見事にマッチングした配役のうまさに、まず頭が下がる。

監督は舞台演出家で今回初映画進出のデクラン・ドネガンとニック・オーメロッドである。

物語は今に通じる話で、一人の貧しい男が、自らの美貌を武器に次々と上流階級の女に取り入り、その権力を得ていく。しかし、その先にあった謀略に自らはまっていたことに気がついた男が、復讐のために、道具として愛を利用し、上り詰める物語である。

ストーリーの転換がやや唐突で、時に前後の脈略や、理由付けが甘い部分があるけれども、そこは舞台演出家らしい大胆なシーンからシーンへのつなぎで、どんどん物語を運んでいく。従って、一昔前の話ではあるが、現代的でおもしろいのである。その意味でちょっとオリジナリティのある秀作だった気がします。

主人公ジョルジュが、華やかな食事をする人々を、ガラス越しに見る場面に映画が始まる。場末の飲み屋で酒を飲んでいて、たまたま軍人時代の戦友シャルルを見かける。彼は除隊後、裕福になって成功し、新聞社で働いているという。早速招かれるままにジョルジュはシャルルの元へ。そこで、彼の妻で才女のマドレーヌと知り合い、さらに上流階級の女たちに出会う。そして、遊びなれているものの心根の素直なクロチルドの愛人となって、上流階級への第一歩を踏み出すのだ。

クロチルドの家に初めて行ったジョルジュが、クロチルドの幼い娘との親密になる一瞬のシーン、そして、でていく娘と入れ替わるクロチルドのカットの演出のうまさがまず目を引きます。

やがて、シャルルの死と共にマドレーヌと結婚したジョルジュはさらに新聞社での地位を得ていくが、実は彼は新聞社の社長と政治家ラロシュに裏切られる。復讐を誓ったジョルジュは社長の娘を虜にし、愛のない結婚をしてその復讐を果たすのである。

結婚式の後、ほくそ笑むようなジョルジュのアップでエンディングであるが、実にテンポがいいために、若干の荒さも許せるのである。

マドレーヌとの、愛のない夫婦生活の陰に存在するマドレーヌの父のような男の存在や、マドレーヌとラロシュの不倫関係に至る流れがやや唐突であるが、一つ一つのエピソードとして、全体の物語がぶれていかない、しっかりした脚本が効をそうして、ラストシーンまでぐいぐいと引き込まれていきました。

参列しているマドレーヌやヴィルジニ、そして最後にジョルジュの復讐の成功に、賛辞のほほえみを投げるクロチルドのカットも見事。

俳優陣の演技力の駆け引きのうまさと、しっかりと書き込まれた脚本、的を射た的確な演出でどんどんストーリーテリングしていく妙味を楽しむことができた秀作でした。


「新宿泥棒日記
’70年代安保闘争期の世相を敏感に感じ取った知識人が、その感じたままを映像という形で具現化した作品で、そこに映像を作る才能が備わっていたために、独特のリズム感とムードを生みだした傑作として仕上がっている。ただ、決して娯楽映画ではないし、永遠のテーマでもない時代性の強い映画である。

現実が幻想になり、感覚がフィクションになる。モノクロからカラーへ、フィクションの映像に現実の台詞が被さるし、唐十郎の舞台をドラマの中に映し込んでいく。

映画が始まり、長髪の唐十郎が飛び出してくる。路上へでて取り囲まれた男たちの前で裸になり、ふんどし一丁で腹を見せると、そこにバラの花が。あわてて取り囲んでいた男たちは逆立ちをする。タイトル。

全く度肝を抜かれる。この後、新宿にある紀伊国屋書店という実に現実的なところで、万引きをする鳥男とそれを捕まえたウメ子が出会う。本物の紀伊国屋書店の社長が登場し台詞をしゃべるし、夜の町にでたら、佐藤慶渡辺文夫がSEXについて酒を飲んで論じあっているシーンを延々と映したり、戸浦さんが和服の女性とまぐわったりと、どこまでが幻想か、フィクションかわからなくなる。

そして、ここまでくると、この映画は感覚で感じていくものだと腹をくくるのである。

具体的なドラマなどなく、鳥男とウメ子は舞台の役者になったり、ウメ子が佐藤慶たちにレイプされたりと、まさにこれがこの時代の雰囲気なのだとスクリーンからぶつけてくるが如しなのだ。

紀伊国屋書店の本が積み上げられたところで、鳥男とウメ子が抱き合おうとしたら、社長が止めたり、どうにもこうにも感じるままに映像が展開していくのです。

そして、繰り返されるメインタイトルの文字。

新宿の交番に男がものを投げつけるドキュメント映像が映され、逮捕される男のショットで突然映画が終わる。狐に摘まれたようなエンディングであるが、不思議なテンポが作品全体から漂ってくる。大島渚おそるべしと呼べる一本でした。