くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さらば愛しき大地」「たぶん悪魔が」

さらば愛しき大地

三十数年ぶりの再見。高度経済成長期に、次第に崩れていく旧態然とした日本の姿と近代化していく姿のチグハグな矛盾を切り取った見事な作品ですが、さすがに物語が暗くてどんどん沈んでいく展開は相当に重い。しかしそれでも引き込まれる描写力に圧倒される力強さには参ってしまいます。好みの映画とは言えませんが、評価に値する傑作だと思います。監督は柳町光男

 

工業地帯の明かりのショットからのタイトル場面が終わると、一軒の家の柱に繋がれている幸雄の場面に変わる。時は高度経済成長期、茨城県鹿島の農家の長男の幸雄は、何かにつけ反抗的ですぐに暴れる性格で家族から疎まれていた。妻との間に二人の男の子がいる。幸雄の弟の明彦は東京でサラリーマンをしていた。明彦の元カノの順子は村で男好きな母と二人で居酒屋をしていた。幸雄は工事現場のダンプの運転手をしているが、高度経済成長全盛期で飛ぶ鳥落とす勢いで、農家の仕事は両親と妻に任せて金儲けをしていた。

 

そんな頃、兄弟だけで溜池で遊んでいた幸雄の二人の息子が溺れて死んでしまう。妻を殴り、行き場のない怒りをぶつける幸雄は、背中に子供の戒名の刺青を掘る。さらにバス停で明彦の元カノの順子を乗せてやりそのまま関係を持ってしまう。そして順子に溺れて家にも帰らなくなる。一方、仕事の方は次第に陰りが出始め、順子との間に子供もでき、妻にも息子が生まれるに及んで、幸雄はいつの間にか覚醒剤に溺れ始める。

 

まもなくして東京の明彦が戻ってきて、幸雄と一緒にトラックの仕事を始めるが、元々経営に才能のない幸雄は取引先の信頼を失い、経営は明彦が中心になっていく。幸雄はますます覚醒剤にはまり、次第に幻覚を見るようになる。そんな幸雄をひたすら愛し続ける順子は、何かにつけて明彦に援助をしてもらいながらなんとか毎日を暮らしていた。

 

やがて明彦の結婚が決まるが、幸雄はすっかり薬にのめり込んでしまい、正気の時間がほとんどなくなっていく。そして明彦の結婚式の日、明彦に悪態をつく幸雄を明彦は家に帰す。覚醒剤をやめると宣言したものの、また覚醒剤を打ってぼんやりする幸雄に順子は泣いてすがりつく。幸雄に疎まれ、とりあえず台所に立った順子だが、正気を失って、順子さえも自分に説教してくる幻聴を聞き、包丁で順子を刺してしまう。明彦、幸雄の父、幸雄の友人の大尽らが刑務所の幸雄に面会して戻ってくる。こうして映画は終わっていく。

 

時折挿入される、田んぼののどかな景色と風に揺れる木々のカット、それを見つめる幸雄のショットが独特の情感を映画に生み出して、高度経済成長によって崩壊していく農村の奇妙な時の流れが見事に切り取られている映像が見事。落ちていく幸雄というキャラクターを物語のテーマにしたストーリーテリングも上手い。少々暗いけれど、素晴らしい一本でした。

 

たぶん悪魔が

何とも退屈な映画だった。淡々と一人の自殺願望の青年を追いかけていくストーリーに、制作当時の環境破壊問題や原水爆問題を取り入れた映像が繰り返すのについていけなくなってしまった。しかも、人物関係がよく理解できないというのもしんどかった原因かも知れません。傑作という解説ですが、私には無理でした。監督はロベール・ブレッソン

 

新聞記事に墓地で自殺したシャルルという青年の記事、続いて殺されたという記事が出て物語は六か月前に遡る。裕福な家に育ったものの、自殺願望があるシャルルは友人のミシェルたちと教会で環境保護の集会に出かけるが、違和感を覚えて出てくる。シャルルのポケットに青酸カリを見つけたアルベルトはそっと瓶を捨てる。浴槽に沈んだままでじっとしているシャルルをたまたまやってきた友人に見つけられる。

 

時は1977年、環境問題が次々とテレビで取り上げられ、さらに各国の原水爆実験のニュースが流れている。ある時、教会で寝袋に入っていたシャルルだが、隣で寝ていた男が募金箱の金を取って逃げ、シャルルは警察に捕まってしまう。しかしアルベルトらがシャルルを助け出す。シャルルは、精神科の治療を受けにいく。その様子を見てアルベルトたちは安心する。しかし、シャルルは、蓄えていた金を持って、知人を訪ね、銃を買い、あらかじめ決めていた知り合いに銃を渡して墓地で殺してもらうように依頼する。そして墓地で銃で撃たれてシャルルは死んでしまい、撃った男は暗闇に消えて映画は終わる。

 

友人以外の登場人物との関係がほとんど理解できないし、淡々と流れる物語と紋切り型の台詞の連続で、脈絡がつながっていかないので、さすがにしんどかった。