くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オデット」

オデット

ちょっと不思議でサスペンスフルなラブストーリーと言うべきか、そのストーリー展開のオリジナリティに引き込まれる作品でした。監督はジョアン・ペドロ・ロドリゲスという人です。

濃厚なキスシーンのアップから映画が始まります。カメラが徐々に引いていくと、なんとその二人は男同士。ルイとペドロの愛し合う二人は、今夜も別れの時間がきた。別れづらくするペドロに、ルイは二人の証の指輪を示して、体を離す。ペドロは渋々自分の車に乗り、去っていくが、彼方に犬の声、車の追突する音がかすかに聞こえる。あわてて、ルイが追いかけるとそこに、事故を起こしてボンネットの上で血だらけになっているペドロの姿が。

カットが変わると、どこかで聴いた曲をバックにスーパーの売場、ローラースケートをはいたオデットが店内を回っている。レジで妊娠している女性をみて、おなかにさわるオデット。自宅では恋人のアルベルトと全裸で抱き合う。

子供がほしいとオデットが言うと態度が変わるアルベルトに、ヒステリックに彼を追い出すオデット。そんなとき同じアパートのペドロの死を知り、その通夜の席にでて、ペドロの指輪を抜き取る。さらに葬儀にでたオデットは墓地でペドロの棺に乗って号涙、ルイに引きはがされれる。そしてオデットは自分が妊娠していて、ペドロの赤ちゃんだとペドロの母に言うのである。このあたりから彼女の行動にどこか妙なムードが現れる。

妊娠検査薬で妊娠していないのがわかったにも関わらず乳母車を買って、夜中に墓地に忍び込み墓石の上で寝たりする。そんな彼女に親しみがわく母。夜中に乳母車を引いて歩くオデットのシーンが、背後に黄色の壁のライティングを施し実に美しい。

オデットはペドロのしていた指輪を自分のサイズに変えて、指にはめている。さらに、ペドロの写真そっくりに髪型を変えたりする。

一方のルイはペドロの死から立ち直れず、睡眠薬を飲もうとしたり、ペドロの墓地で手首を切ったりするが死にきれない。

ペドロの母は息子を失った悲しみと、息子を思ってくれるオデットに曳かれ、オデットを自宅に引き取り、ペドロの部屋に入れる。彼女はペドロの服を着て、髪型も短くし、ペドロの部屋で手に入れた鍵でルイの部屋に忍び込んで、指輪を残す。

手首の治療から退院してきたルイは、枕の上の指輪を発見、オデットと会って、その姿にペドロをみる。自宅で全裸で四つん這いになり愛を受け入れるルイ、その背後にはペドロの格好をしたオデットが腰を動かしている。カメラがゆっくりと引いていくと、幻覚だろうか、じっと見下ろすペドロらしき男の後ろ姿が映る、エンディング。

画面づくりも美しく、墓石の周りにろうそくをおいて一晩眠るオデットのショットや、先ほども書いた、夜の町のライティング、などさりげないショットなのだが、非常に丁寧な絵作りがみられる。それに、ちょっと異常な物語であるが、淡々とミステリアスとサスペンスを交えたストーリーとして描いていく。

オデットは明らかに精神に異常を来しているのであるが、その狂気がどこか、切ないほどに女心を映し出しているようにみえるから何とも不思議な演出である。

個性的と言えば個性的だが、その独創的な感覚が生み出すストーリーテリングのおもしろさに引き込まれてしまう秀作でした。おもしろかったです。