くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恐怖と欲望」

恐怖と欲望

スタンリー・キューブリック監督が、自らアマチュア作品だと位置づけ封印した幻のデビュー作を見ることができました。

完璧主義者であるキューブリックが、習作として位置づけたのかもしれませんが、彼独特の一点透視図法による画面により、奥の深い構図がそこかしこに認められ、細かい人物のクローズアップとシーンの中に挿入すると共に、心の中の声を背後に流すなどのテクニックで、非常な緊張感を画面の生み出していく手腕はさすがです。

映画は前線すぐの敵陣地に不時着してしまった四人の兵士の物語である。冒頭で、これは架空の国の架空の戦争である。とナレーションが流れ、それでも人間の欲望や死、戦いというものが普遍的なものであるとことわりが入る。

画面中央に、まるで舞台の開幕のように微動せずに四人の兵士がたっているシーンから映画が始まる。
コービー中尉、マック軍曹、シドニー二等兵フレッチャ二等兵の四人である。

味方の前線に近いこと、東に川があることから四人は筏で脱出をしようとする。筏を作る途中で飛行機が頭上を抜けていく。たまたま双眼鏡で見た川岸に敵の将軍たちの兵舎を見つける。四人は、筏を完成させるが、たまたま通った小屋に敵の兵士がいることを見つけ、食料と銃を手に入れるために襲う。スープがあふれ、テーブルにこぼれ、汚く流れる。床に二人の兵士が倒れ、それを若いシドニーがテーブルに顔を伏せて見つめる。人物の配置が奥に並ぶ縦の構図で描かれる。

さらに、女たちが水遊びをしていて、その一人にみつかって、その女性を木に縛って、シドニーを見張りにして、筏の様子を見に行く三人。シドニーが気が触れたようになって、女を逃がし、撃ち殺してしまう。そのまま、訳の分からないことをいって走り去る。

マック軍曹が、見つけた敵の飛行場を襲うと提案。将軍を撃ち殺し、飛行機を奪って、コービー中尉とフレッチャーは脱出。撃たれたマックは筏に乗って川を下る。途中でシドニーを乗せる。

四人が地面に座るシーンでの左右の座り位置から奥に延びる構図といい、時折ワンカットに近いクローズアップが挿入される演出といい、非常にキューブリックらしい緊張感のあるクールな演出が展開。物語はシンプルであるが、架空の戦争を舞台にした独特のメッセージに次第に寒気を覚えてくる。

キューブリックは、この作品はアマチュア的な未完成品だと評価したようだが、確かに習作的な部分がないわけではないとはいえ、彼の才能がしっかりと映像として昇華している点ではさすがにハイレベルの映画だと思います。必見の一本ですね。