くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハワイ・マレー沖海戦」

ハワイマレー沖海戦

死ぬ前にスクリーンで見たい映画の一本「ハワイ・マレー沖海戦」をとうとう京都文化博物館で見ることができた。監督は黒澤明の師匠で、娯楽映画の名匠山本嘉次郎監督である。

太平洋戦争開戦一年後の記念映画として完成されたこの作品は、押しも押されぬ戦意高揚映画であるが、円谷英二による特撮シーンのすばらしさ、セミドキュメンタリータッチで描かれた商業映画的な演出が、当時の戦意高揚映画の範疇を越えた傑作であり、その意味で映画史にその名を残す名作である。

特に主人公というものは存在せず、海軍兵学校にいた立花忠明が郷里に帰省するシーンから始まる。分家の一人息子友田義一から航空兵志願の心中を語られるシーンが長回しのカメラで延々ととらえられる。そして、友田は予科練へ入隊、厳しい訓練のシーンの合間に、精神論を力説する上官のシーンが頻繁に挿入される。

そして、ハイテンポでストーリーが前に前に進み、いつの間にか時は昭和16年、開戦の秋となるのである。

オーバーラップを多用した時の流れの演出。訓練所に並ぶ双翼機のシーンに、空を飛ぶゼロ戦の編隊が被さる場面は、緊張感を見事に伝えてくる。そして、開戦に至る様々な事件のロゴが被さってくる。

クライマックスは、真珠湾攻撃シーンとそれに続く、シンガポール沖のマレー半島の海戦シーンである。特に、極秘作戦だった真珠湾攻撃シーンは、公になった資料だけを基にスタッフが作り上げた攻撃シーンのモンタージュがすばらしく、超スローモーション、ミニチュアワーク、スクリーンプロセスなどの特撮技術の粋を集めたところに、ドキュメント映像を重ね合わせる編集がすばらしい。ハワイの山肌をゼロ戦が迂回して入ってくるシーンは、後の真珠湾攻撃を扱った映画の手本になっている感があり、その構図のうまさに頭が下がる。

もちろん、60年以上も前の特撮技術であり、CG全盛の今から見れば稚拙に見えるシーンも多々あるが、そこを編集でリアルに見せるスタッフの感性に脱帽せざるをいえません。

戦況を見守る友田の郷里の人々のシーンや、空母で出撃を待つ兵士のシーンの演出も非常に丁寧に描かれ、セミドキュメント形式とはいえ、ドラマティックな展開は見事なものである。

ドラマ性と特撮の妙味を兼ね備えたエンターテインメントとしてみても一級品で、製作された時期と当時の日本を思うに当たっては、さらにこの作品の歴史的価値のすばらしさを再認識できる一本だったと思います。