くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「加藤隼戦闘隊」

加藤隼戦闘隊

「ハワイ・マレー沖海戦が太平洋戦争開戦一年後のまだまだ戦果が上向きだった頃の作品であったのに対し、この「加藤隼戦闘隊」は1943年、戦果が下降し始めた時期の作品である。「ハワイ・マレー沖海戦」のスタッフをそろえ、軍神とあがめられた加藤健夫中佐(後の大佐)を描いた人間ドラマであるが、なんといっても、その空中戦のシーンが抜群にすばらしい。

零戦をはじめ、スピットファイアーなどの実践機を交えたドキュメンタリー映像を効果的に特撮シーンに挟み込み描いていくリアリティあふれる迫真のシーンの数々は、今の戦闘シーンなど及ぶべくもないほどに迫力がある。

火を噴いて落ちていく戦闘機、敵機を追尾する零戦からのショット。編隊がゆっくりと降下していく爆撃シーン、縦横無尽に飛び回る戦闘機の姿などは、とてもCGで味わえない見事さがあります。

もちろん、特撮シーンとわかる部分は、60年近く前となると稚拙であることは否めませんが、それでも、見事な感性で編集していくショットの組み合わせが、決して稚拙な特撮をものともしない迫力を生み出していく。

そして、そんなスペクタクルなシーンの合間に挟み込む加藤建夫という人物の人間描写も丁寧で、しかも、ただの戦意高揚映画に終始させず、戦果があがる一方で、次第に戦況が悪化していく様を、敵襲にあう前線基地のシーンなどもしっかりと描き、さらに、次第に無理な出撃で疲弊していく部下の姿や撃墜されて減っていく部隊の様子なども描いていく。

確かに、加藤建夫という逸材を神のごとく描く一方で人間味あふれる描写をすることで、戦意を高揚させようとするねらいがないわけでもないけれども、どこか、戦争への疑問さえも抱かせる微妙な演出が絶妙。

そして、短い字幕を繰り返して、よけいな説教シーンを省き、クライマックスでは一気に加藤建夫大佐の戦死をテロップしてエンディングになる。どこか、日本軍のかげりを漂わせるこの作品は、その空中戦の見事さを評価する一方で、公開された時代背景を思うときに一抹の切なさも見え隠れする庶民の心境もスクリーンから漂ってくるのです。必見の一本だった気がします。