くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「孤独な天使たち」「クロユリ団地」

孤独な天使たち

「孤独な天使たち」
「ラスト・エンペラー」などの大作で巨匠の名をほしいままにしたベルナルド・ベルトルッチ監督が久しぶりに放った作品は、まるで駆け出しの頃に戻ったような青春映画の小品でした。重病で車いす状態の彼が、9年間の沈黙の後に映画を作ったとはいえ、全盛期?のさえ渡るような色彩や映像演出はみられず、淡々と語る物語にももう一つ切れがないように思えるのは私だけでしょうか?

白と赤のタイトルが終わると、ある部屋で主人公ロレンツォが、一人の精神科医からの質問に答えている。この男は車椅子に乗っているようで、彼に送られて部屋を出たロレンツォがかけ降りる階段が極端な円を描いている。そのカットから思わずハッとさせられ、ベルトルッチ復活か?と思わせる。

どうやら、学校でもあまり相手になれず、友達とのつきあいもよくないロレンツォは、まもなく行われるスキーツアーに参加すると母親に告げ、喜ばせたようである。別居中なのか、父親にうれしそうに電話している母を、学校から帰ってきたロレンツォが見つめる。

ところが彼には計画があった。スキーツアーに行くふりをして、地下室で好きな音楽を聴きながら一人自由に過ごすというものだった。ツアー費用で一週間分の食料を買い込んで、いざ地下室で生活を始めるが、なんと二日目に腹違いの姉オリヴィアがやってくる。

田舎に帰る前にヘロイン中毒から快復するためにやってきたといいながら一緒に住むことに。せっかくの計画をふいにされたロレンツォは戸惑うが、薬切れで苦しむオリヴィアの姿に哀れみと、不思議な感情を持つ。

ロレンツォが見る夢の中に、少し先の未来が見えたりするショットが往年のベルトルッチ映画を思わせる。

オリヴィアは友人と称して、中年の画商のような男を連れ込んだり、わめき散らしたりと、ロレンツォを困らせる。
大人へと変わっていこうとする思春期の少年の、微妙な心の旅立ちと、愛や恋に未熟ながらのあせり、その先に見えるものがない中で麻薬におぼれた少女の新たなる一歩に進むためのけじめとなる一瞬の時間を、この地下室の一週間で描ききろうとするベルトルッチの意図は分からなくもない。

特に、映像に凝った演出はせず、密室の中で繰り返される腹違いの兄弟の物語がただ、何の脈絡もなく続く。

見えてこないのが、そのストーリー展開の中のメッセージである。禁断の恋に発展するわけでもなく、親に対する鬱憤を描くでもなく、ロレンツォがこういう行動に至った経緯を見せていくわけでもない。このどこへも行き場がないというのが、この映画の意図するものかもしれないのですが。

結局、最終日、薬をやめたといったオリヴィアはその前夜、薬を買ってたばこに仕込んで、部屋を出ていく。外で見送るロレンツォ。カメラがぐーーっと引くと、彼方で二人が抱き合う。再びよっていったカメラに向かって歩いてくるロレンツォのアップでストップモーションエンディングである。どこか、明るい表情のロレンツォのカットが印象的である。

まるで、もう一度映画作りを一から始めますよ、といわんばかりのどこか初々しささえ覚える一本で、悪くいえば、演出技量が逆回転したのかと思えなくもないのです。このまま、映画作りを続けるのなら次が楽しみな一本だったかなという感想です。


クロユリ団地」
何の工夫もない陳腐な脚本と、B級映画とさえも呼べない適当な作品の出来映えに辟易する一本だった。いったい、子供を出汁にしたホラーをいつまで続けるの?という感じである.TOHOのフリーパスだったからよかったものの、お金を払っていたら、最悪だった。

映画が始まって、意味ありげな主人公明日香の一人称カメラと、繰り返される会話の連続に、開巻すぐに、この家族は幻影だとわかる。もしかしたら明日香も人間ではないのかと思ったが、そうではない。冒頭からやたら、ふさぎ込んだ前田敦子の演技に、やがて、いかにもな子供が登場して遊び始める。隣の部屋の老人が死んで、その責任をやたら思い悩む明日香もまたしつこい。

だいたい、スイカの甘さを引き出すために塩をかけるがごとく、怖さを引き立てるために、塩の役割として極端なリアリティか、つっこみどころ満載な笑いをベストのタイミングで入れるのがB級ホラーの醍醐味だが、そのあたり、なにを勘違いしているのか、ジャパンホラーのおどろおどろしい個性を未だに踏襲。クライマックスの御祓いのシーンはつっこみを越えて滑稽。これではだめだね。

途中から成宮寛貴扮する遺産清掃人の恋人の悲劇もかぶるのだが、このあたりから、前田敦子の話もどうでもよくなってくる。そして、死んでいくのは成宮で、明日香と遊ぶ約束をしたあの子供はどうするの?独り言をつぶやく明日香のショットで暗転エンディング。

というより、少女時代の事故を、専門学校性になった年齢まで引きずっている心神喪失状態の明日香を、一人暮らしさせる父の兄の心情って同なの?という、人物設定の甘さも去ることながら、小道具に至るまでが時代考証さえ適当というのはちょっといけません。

作品全体のリズムをみれば、冒頭からひたすら陰気な演技を見せる前田敦子の演技リズム感は、ちょっと疑問だった。「苦役列車」では、ちょっと見所あるかなと思ったのに残念。

テレビドラマ版が深夜放送しているらしく、そちらをみていないので何ともいえないけれど、映画としては余りに残念なできばえだった。中田秀夫監督作品でなかったらいかないところです。