くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「誘惑」「白雪先生と子供たち」

kurawan2015-05-07

「誘惑」
原節子特集の一本、監督は吉村公三郎である。非常にオーソドックスなラブストーリーで、今となっては若干退屈さを禁じ得ないが、新藤兼人の脚本は、辛辣なくらいの残酷なシーンの積み重ねでクライマックスを彩る。

映画は、棚田の広がる丘の上の墓に、一人の女性、人見孝子が、先ほどなくなった父の墓参りをしているシーンに始まる。そこへ訪れたのが、孝子の父を恩師とする政治家の矢島で、孝子が生活に息詰まっているのを聞いて、引き取ることにする。矢島には二人の子供と病身の妻がいる。

なるべくして矢島と孝子は恋仲になり、薄々感じた妻は、八島と孝子が部屋で初めて口づけを交わした日に、療養所を抜け出して帰ってくる。しかもその夜に様態が急変、死んでしまう。

一方孝子に思いを寄せる一人の学生が、その前の夜に孝子に求婚、矢島との仲を精算する必要を感じた孝子はいったん受け入れるが、矢島の妻に、その臨終の床で、子供たちを託され、再び矢島のところに戻ってくる。

雪の降る夜、窓の外から孝子は、窓越に矢島に、やはり愛してるとささやく。家の中から孝子を抱き寄せて窓の上に引き上げる名場面でエンディング。

クライマックスの急転解する残酷さは、よく考えると、相当なドラマである。しかもその後の窓越しのラブシーンも、亡くなった妻には余りに残酷なお話ではないかと思えるが、この、甘ったるさを排除した新藤兼人の視点が、彼の独創性であると思うし、それを美しいラストシーンの演出で閉じた吉村公三郎の演出がさえ渡る。

全体に、それほどの傑作ろ思えない物の、それなりに見応えのある一本でした。


「白雪先生と子供たち」
原案があるとはいえ、八住利雄の脚本は辛辣である。一見、小学校の先生と子供たちのほのぼのした物語なのに、中盤から後半、一気に大人の視点が前面に押し出されてきて、前半の浮浪児と先生の心温まる物語を吹き飛ばしてしまう。

監督は吉岡廉という人。日教組が協力したという背景が、今となっては、ちょっと、納得してしまう部分がないわけではないが、詰め込まれたメッセージが、しっかりと展開していくのは脚本のうまさかもしれない。演出については、ちょっとあざとい繰り返しが多用されたり、しつこいシーンも多々見られるのが気になるが、これもまた当時の世相を写す一本だと思います。

映画は、東京近郊の小学校で教師をする白雪先生と、その教え子の物語である。最初に子供たちが笹舟を流す。川に流れた笹舟が、途中の穴に潜って、学校が鯉を飼っている池に飛び出す。この水の流れの描写が、終盤の工場廃液が池に流れ込む伏線になる。

学校の近所に住む浮浪児の少年を引き取り、学校に行かせる白雪先生の人柄を描く前半部分から、クラスメートの原島という少年の父親の工場が操業し、廃液が学校の池に流れて、鯉が死んでしまう後半へと、二つのエピソードがほぼ分離して描かれる。

原島という雇用主であることを鼻にかける少年の話と、そこで働く母親の子供が級長である設定など、当時の日本の姿も垣間見られ、さらに白雪先生の妹の浮浪児への視点の厳しさも、また世相を反映する。

クライマックス、原島家に軽はずみに抗議にいく白雪先生や、子供たちが、廃液の筒を勝手に動かそうとしたり、かなり雑な積み重ねも気にならないわけではないが、それなりに楽しめる一本でした。