くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「集金旅行」「くちづけ」(宅間孝行原作)

集金旅行

「集金旅行」
中村登監督代表作の一本。コメディタッチで軽快に展開するロードムービーである。とにかく、テンポが非常によくて、たわいのないお話ながら、古き日本映画の良さがふんだんにちりばめられているのがとっても楽しい。

開巻、競輪場から物語が始まる。主人公旗が友人の仙造と競輪にきている。仙造が勝ち、家に帰ってみると、妻の浜子が息子勇太を残して、駆け落ちしていない。しかも、やけ酒を飲んでいる最中に仙造も急死、借金の形にアパートをとられそうになる。

そこで住民が、仙造が生前にしていた高利貸しの借金を取り立てて、アパートをとられないようにしようと計画する。アパートの住人で、妾暮らしをしているような女千代と旗が、仙造が残した借用書をたよりに、旅立つことに。そして、勇太も母親に会わせるべく連れ出して、本編が始まる。

千代はかつて自分と懇ろだった男に慰謝料を巻き上げるため、旗は仙造の残した借金の取り立てのための集金旅行となる。

行く先々で、様々な人物と渡り合いながら、コミカルなお話がテンポよく進んでいく。先々で出会う男たちを演じる俳優さんが個性的な面々で、一つ一つのエピソードが実に楽しい。

悪戦苦闘の末にたどり着いた高知で、千代は彼女の最初の男で極道をしている津村と結婚することにし、勇太も母親に預けて、一人集金旅行を続ける旗のシーンでエンディング。

映画産業華やかなりし頃の典型的な娯楽作品で、肩の凝らない中に、そこか人情味のあふれた笑いがちりばめられ、今みれば当時の日本の風景も楽しめる一本である。昨日の「古都」とは打って変わっての楽しい作品ですが、本当にこの時代の映画監督はどんなジャンルもそれなりにこなす器用さを持っていたなと思います。いやぁ、おもしろかったです。


「くちづけ」
暖かくて、暖かくて、切なくて、悲しくて、でもどこか厳しい現実の残酷さもかいま見える。そんな、珠玉の群像劇の秀作に出会った気がします。いや、そんな秀作なんていう俗っぽい評価はしたくない、とってもハートフルな、でも、でも切なすぎる映画だった。
原作は脚本も担当した宅間孝行が自身の劇団〈東京セレソンデラックス〉のために書き下ろした戯曲。

私は貫地谷しほり竹中直人も嫌いである。だからほとんど感情移入できない、はずなのに、涙が止まらない。笑いが絶えない。胸に迫ってくるのである。これはなんだろう。あまりにもストレートに感情に訴えてくるからだろうか。本当に最高に感動してしまいました。泣いてしまいました。

物語は、知的障害者グループホームを舞台にした群像劇である。ほとんど、一つの空間から外にでないから、舞台劇のごとくである。その中で、暮らしている子供のような大人たちの、繰り返されるとぼけた会話の連続、そして、それを見守るスタッフのさりげなく受け入れる行動、時々挿入されるドキッとする現実的な台詞、単なる喜劇にも悲劇にもしない宅間孝行という人の脚本の妙味に引き込まれる。

さらに、まるでファンタジーのようなカメラワークをとる堤幸彦の演出にも拍手したくなるのです。

一枚の紙切れが風に舞っている。生き物のように舞う紙切れをカメラが追いかけていくと、一見の白い建物の中庭に通ずるガラス戸にへばりつく。そこには「漫画家愛情いっぽんの一人娘阿波野マコが死んだ」という記事。

こうして、ファンタジックな映像ながら、シリアスなファーストショットから映画が始まる。

このグループホーム知的障害者の自立を目指して、それまで世話をするいわば共同生活の場である。今日はクリスマス、うーやんと呼ばれる男がこれから最愛のマコちゃんと結婚しようとしている。働いている先から勝手にクリスマスツリーをもってくる頼さん。いきなりこの独特のアットホームな世界が紹介される。マコちゃんはもう結婚できないのだと説明する妹の智ちゃん。応酬される彼らの台詞の掛け合いが実に巧妙で、とぼけた味わいのユーモアと、ちょっと考えると作為的な台詞の数々にどんどん引き込まれていくのです。

そして、物語は4月にもどり、かつて人気漫画家と呼ばれた愛情いっぽんなる漫画家とその娘で、知的障害のマコがやってくるところからが本編。
4月、5月とどんどん月日がたち、このホームでの出来事が語られていく。どうやらこの漫画家は病気であるらしいのも少しずつ描写され、知的障碍者に対する周囲の人々の冷たいというか現実的な視点もしっかりとエピソードや台詞の中に挿入されてくる。

このホームを世話する国村の娘はるかの友人で、茶髪の女子高生が知的障害者に向かって「キモイ」と平気でいったり、おもしろ半分に携帯で写真を撮ろうとしたりする。うーやんの妹の智ちゃんの彼氏が、どうやら知的障害の兄がいることで結婚を破談にする。非常に手厳しいエピソードも語られるが、考えてみればこれが現実であり、本当の姿なのである。そういうところにもしっかりと目を向けた脚本のうまさに恐れ入ってしまう。

そんなエピソードの数々にも、まわりの障害者たちのとぼけた台詞の応酬に、思わず涙ぐんでしまう。

愛情いっぽんの病状はさらに悪化、娘を専門の施設に移し、自分が死んだ後もホームレスや犯罪者にならないようにしようと、娘に別れを切り出すシーンはもう感無量である。
しかし、ことあるごとに施設を抜け出し、ひまわり園にやってくるマコ。いよいよ死期が迫ってきたいっぽんは、ある夜、とうとう娘の首を絞めて殺してしまうのである。回る回るカメラが、延々と首を絞めるいっぽんの姿を捉える。すでに体力も限界に迫っている彼の行動は、鬼気迫る一方で、あまりにも切ない。

きれいごとで済ませることができない、これが現実なのである。そんな知的障碍者たちの厳しい現実を、ユーモラスを交えてどんどんストーリー展開し、さらに、切々と胸に迫る感情表現を施すという脚本の素晴らしさと、それに答える堤幸彦の演出が絶品のいっぽんでした。本当に泣ける映画です。