くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エレニの帰郷」「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間

エレニの帰郷

「エレニの帰郷」
テオ・アンゲロプロス監督の三部作の第二部なのだが、監督の事故死で、遺作になってしまった作品です。

美しい流麗なカメラワークで、流れるように描く映像のリズム感のすばらしさ、詩情を醸し出す画面の美しさなどは、いうまでもなく絶品。

物語は、エレニの息子で映画監督の男が、母エレニと、彼女を愛したヤコブ、そしてエレニが愛したスピロスの映画を製作している現場から始まります。
時に、若き日のエレニの物語に飛び、そしてまた、空間も縦横に移動する。その上、エレニの孫もまたエレニというのだから、なんとも複雑な演出である。

にもかかわらず、感覚で映像を楽しむというテオ・アンゲロプロス監督ならではの作品のおもしろさに、どんどん酔いしれていくのだからたまりません。

ギリシャへの旅路の途中で、エレニ、スピロフ、ヤコブがそろい、すでに老いた三人の前に、孫娘のエレニも加わる。ギリシャに戻る帰途についたエレニとスピロフ。しかし、二人の愛を確かめたヤコブに戻るところはない。

時は21世紀を迎えようとする大晦日ヤコブは運河を走る船に乗り、運河に身を投げる。体の弱ったエレニは、突然、料理が用意されていないとスピロスのところへやってくるが、直後ベッドの中で息を引き取る。エレニのベッドルームに、窓がひり手風が吹き込む。カーテンが揺れる。じっと見つめる年老いたスピロス。

「起きあがっておいで、エレニ」
差し出した手に、もう一つの手が握られる。それは孫のエレニの手。二人が窓の外を見ると、雪が舞っている。そして二人は手を携えて雪の中へ。「エレニの旅」のファーストシーンが被さり、涙が止めどもなく流れました。さすがにすばらしい作品、すばらしい傑作。これが叙情詩ですね。本当に第三部がみられないのが残念です。たまりませんね本当に。


「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間」
確かに、よくできた原作なのだと思うが、脚本化の段階で、整理ができていないために、やたら、複雑なだけの展開になっている。しかも、演出も独りよがりになっていて、監督自身は理解しているのだろうが、第三者である観客に伝わりきらない。映像も、それほどこったものではないし、デジタルを駆使しただけのテレビレベルなので、そのあたりにも、みるべきものがないのがちょっと残念。

とはいうものの、サスペンスとしては、なかなかの出来映えである。テレビのスペシャルとしてみるのなら、それなりの大作に仕上がっていると思うが、映画として大スクリーンでみるには、やや物足りない。

主人公石神が、ふらふらと公園を歩いているシーンに始まり、自宅に戻ってみると、妻が死んでいる。床にはなにやらろうそくがおかれている。突然、警察と名乗る男が現れ、つれていかれるが、間一髪で車から脱出、そこへ韓国のジャーナリストと出会い、逃避行を助けてもらう。

こうして物語は始まるが、この石神という男の記憶があいまいで、時々、韓国語をふつうに話したりする。そして、やたら化学薬品に詳しいのだが、このあたりの描写が実にリアリティに欠けるために、せっかくのお膳立てがさらりと流れるのがもったいない。

そして、次第に真実に近づいていく展開にしても、ウェイトはすべて同じで、どこにポイントを置いたエピソードなのかが見えないために、どれが謎で、どれが事実で、いったい石神はどうなっているのだと、映画の中の主人公よりも、みている私たちの方が悩んでしまうのだ。

謎を隠そうとするあまり、なにもかもが謎になったという感じで、途中ではこの韓国のジャーナリストも怪しくなってしまうのだから始末が悪い。

結局、記憶を保管して、再度思い出すことができるウィルスの発見、という快挙をした研究室で、たまたま、争いの末に、石神という男の記憶を自分に上書きされた主人公。やがて、そのウイルスが、抗体によって抹殺され、元に戻ると、石神として存在していた5日間が消えてしまうという、切ないラストへと流れる。

真木よう子扮する妻の存在も、ラストでそれほど際だたないし、韓国人にもどり、ジャーナリストに会い、彼女からルービックキューブに仕込んだUSBメモリーを手渡され、石神の時の記憶が入っているのだろうという暗示で暗転、エンディング。

妙に、ばたばたする作品で、せっかくの良質のミステリーが、素人臭いドラマになってしまったような感じでした。西島秀俊もそれほどでもないし、作品としては凡作でしたね。