くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カサブランカ」「喜劇女は男のふるさとヨ」「マイヤーリン

カサブランカ

カサブランカ
さすがに、ここまでの名作になると、無駄な台詞、無駄なカットがほとんど、いや、全くないに等しいほどに作り込まれている。

脚本の組立の緻密さもさることながら、映像の中に作られていく、さりげないクローズアップの積み重ねや、ちらちらと顔を照らすサーチライトの光、ブラインドを通って差し込む夜の帳など、なにもかもが物語を彩っていく。

初めてみたのは、すでに40年近くになる。
そのときは、ただ、名作というだけでみたのだが、今回見直してみて、イングリッド・バーグマンの美しさに圧倒される。まさにスクリーンの中にロマンがあった時代の大女優である。

ラストシーンは、飛行機が飛び去って終わりだったという印象だったが、違った。リックと警察署長が二人で霧の中に歩いていってエンディングだった。これも粋な世界である。

しかも、このクライマックスのために、直前にリックの店を閉鎖するきっかけが、ドイツ人とフランス人の国歌の演奏のやり合いである。つまり、あのシーンがあって、ラストが生まれる。これが脚本のうまさである。

「君の瞳に乾杯」の名台詞は4回でてきた。
リックが、店の中でてきぱきとこなしていく行動が実に粋であるし、さりげないエピソードの中に男のロマンを漂わせる。そして、そんな彼を作った原因は、実は、パリで愛した女性イルザが、約束の待ち合わせにこなかったという過去にあるところもまたロマンである。

かたくなに、出国ビザを渡さないリックが、最後の最後でイルザと夫を送り出していく大団円にいたっては、これが映画だと拍手せざるを得ない。

いい映画はこういう作品を言うのでしょうね。


「喜劇女は男のふるさとヨ」
ちりばめられた笑いと人情のエピソードの数々を楽しみながら、森崎東監督の独特のペーソスに酔いしれていく一品。とはいっても、松竹映画独特の笑いの世界は、個人的に好みではないだけに、どうもすべてが薄っぺらく見えてしまう。それでも、隙間のない積み重ねられた物語はなかなかの秀作である。

映画は、ストリップ斡旋業という下町の芸能社で、そこに出入りする女たちの物語を絶妙の台詞回しで描いていく。主人は森重久弥、妻が中村メイ子。関西喜劇や他社の映画作品とは若干毛色の変わった掛け合いの展開は、どこか乾いた中に、人情味を生み出していく。

一本の筋の通った物語というより、いくつかのエピソードを絡めながらの展開になっている。さすがに、若干、時代を感じる作品ではあるけれども、職人技とも呼べる演出は見事に、ラストシーンで観客をにこやかにして劇場を後にできるようにするから大したものである。

映画が映画であった時代の、完成された未完成品という楽しい作品でした。


「マイヤーリング」
唯一、オードリー・ヘップバーン主演で公開されていない作品ということだが、映画ではなくテレビ作品であるらしい。それでも、共演は、当時の夫メル・ファーラーであり、監督は1936年にシャルル・ボワイエダニエル・ダリューで自ら映画化したアナトール・リトヴァクであるからすごいものである。

三章からなる75分の物語であるが、さすがに、しっかりとした作品に仕上がっています。

19世紀末、オーストリア皇太子ルドルフと令嬢マリーの悲恋を描いた有名な物語。テレビドラマとはいえ、映画としても十分に通用するドラマに仕上がっていますが、さすがに、フィルムとはいかないために、デジタル処理したとはいえ、かなり荒い状態で、ふつうなら、公開などできないレベルである。しかし、その希少価値ゆえにみるに耐えるという感じの画面でした。

とはいっても、やはり、オードリー・ヘップバーンとメル・ファーラー、貫禄が違う。それだけでもみる値打ちが十分あるし、いつのまにか物語に引き込まれ、ラストシーンの自殺場面では、じわっときてしまう。テレビドラマとはいえ、この質はすばらしい一本でした。