くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「熱波」「終戦のエンペラー」

熱波

「熱波」
一人の探検家らしい男が現地人をつれてジャングルを歩いている。そして、川の畔にきた男は鰐に自分の身を任せるべく現地人に別れを告げて、手を振る。この作品はこの映像から始まる。監督はポルトガルのミゲル・ゴメスという人である。

モノクロスタンダード、フィルム撮影にこだわった映像は、非常にクオリティの高い、独創的な作品で、有る意味玄人好みであるが、さすがにこれほどの演出スタイルは、しんどいと呼べなくもない。

タイトルの後、物語は12月28日というテロップから始まる。一人の老婆アウロラ、彼女を世話する黒人のサンタ、そして隣人のピラールの話が語られる。二部構成で描かれる物語の前半部分である。

カジノで金を使い果たして帰れなくなるアウロラ、彼女を迎えにいくサンタ、そんな日常を描いて、29日、30日、31日、そして新年へと物語は進んでいく。アウロラの日常は、誰もがたどる老後の世界かもしれない殺伐としたものである。

ある日、サンタがピラールの家のドアをたたく。アウロラが病に倒れたという。駆けつけたピラールに、最後の最後ペンドゥーラという男に会いたいとアウロラは告げる。

ピラールは、すでに老人ホームに入っているというペンドゥーラを捜し当て、アウロラの元へ走るが、途中の車の中でアウロラの死を知る。そして語られるペンドゥーラとアウロラの若き日の熱愛の物語。その部分が後半第二部となる。

あくまでペンドゥーラの語るお話という設定で進む後半部は、ペンドゥーラとアウロラの画面でありながら、いっさいのせりふが聞こえてこない。効果音や、周辺の喧噪のみが流れ、あとはペンドゥーラの語りで描かれていくので、サイレント映画の如しである。

ザ・ロネッツの「ビーマイベイビー」「ベビーアイラブユー」などの名曲に乗せていく後半部が秀逸で、切ない不倫物語ではあるが、どんどん映像に引き込まれる魅力があるが、いかんせん、ナレーションのみで無言で展開する映像は、気を抜くとしんどい瞬間があることも正直なところです。

後半の物語は夫もいるアウロラがペンドゥーラと恋に落ち、身重でありながらも愛を語り合う。舞台はアフリカのダブウ山麓。周辺に広がるジャングルの景色、時折見せる、迷子になって飼っている鰐のショットなどが効果的に物語を語っていきます。

蚊帳の中での全裸の抱擁シーンは実に美しいし、フィルムにこだわったモノクロの深みが何ともいえない切ない恋物語を紡いでいく映像は、過去の想い出というより、今まさに燃え上がるラブストーリーのごとき新鮮さを感じさせるのです。

やがて、臨月を迎えたアウロラをさらっていくペンドゥーラだが、途中で陣痛になり、仕方なく夫を呼び、ペンドゥーラは彼女を引き渡す。そして、二人は別れることになるが、それから後アウロラの夫は死に、リスボンに移ったアウロラを追ってペンドゥーラも移る。

非常に美しい熱愛の物語として展開する後半部が特にすばらしく、前半のふつうの演出が後半でサイレント映画のような演出に切り替えるオリジナリティがとっても素敵に見える一本。

優れた映画ですが、一度みてその映像のすばらしさを把握できないほどに奥の深い部分もあり、切なさ故のラブストーリーの感動だけでとどまらない魅力あふれる作品でした。


終戦のエンペラー
よくできたテレビスペシャルのような映画でした。映像がとっても陳腐で、とても大スクリーンに耐えられるものではない。しかも、ドラマもありきたりで普通。トミー・リー・ジョーンズがでているから映画として公開できるのでしょうが、それがなければとても料金払ってみるほどのレベルのものではなかった。

物語は終戦後、マッカーサーの依頼で天皇の戦争責任を調べる任務に就いたフェラーズ准将の物語である。
彼は太平洋戦争直前に日本にいて、日本人女性と恋に落ちていた。その物語も語られるが、これもまた陳腐で普通すぎる。かえって、この場面は削除して、徹底的に天皇の責任を明確にするサスペンス部分にドラマをおけば、もうちょっとハイレベルにできあがったかもしれないと思います。

トミー・リー・ジョーンズも、ちらほらとシーンがあるだけで、明らかに何かの合間に撮影に望んだという程度で、クライマックスの天皇との会見もほんの少しでそのままエンディング。

フェラーズ准将についた通訳の高橋のドラマもちらほら入れようとするが、人間ドラマとして描いていないので、どうでもいいエピソードになるし、全体が非常に薄っぺらい。

冒頭の原爆投下のドキュメントフィルムから、マッカーサーが乗る飛行機がいかにもミニチュアに見えたところから、これは安っぽいなと思っていたら、案の定、日本の焦土のシーンも深みがないし、それぞれの人物のドラマも生きていない。とても、映画にするためにしっかり練られた演出に見えないのである。

とはいえ、まぁ、テレビスペシャルとしてみればそれなりの出来映えだったきもします。