くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エレニの旅」

エレニの旅

長回しと流麗なカメラワークで見せるテオ・アンゲロプロス監督の映像づくりの美しい世界は、この作品でも堪能させてくれます。

開巻すぐ、難民としてギリシャにやってきた人々が、浜辺をこちらに向かってきて、ストップモーションで、エレニとアレクシスの台詞からタイトルに移る場面、たくさんの船が画面中央にひしめいて、こちらに向かってくるシーン、主人公エレニの父の家の傍らの木につるされる羊のショット、水に沈んだエレニの村の屋根のシーン、一つ一つ数え上げたら霧がないほどの見事なシーンに引き込まれていくすばらしい傑作です。

映像を楽しむ映画というのは、こういうのをいうのでしょうね。次々と映し出される画面に、食い入るように見ながら、世界大戦と内線に揺れるギリシャの物語を背景に描かれる一人の女性エレニの半生は、圧倒的なドラマ性をもって、迫ってきます。

養父との結婚を逃げ出し、兄と慕いながらも、幼い頃から恋いこがれたアレクシスと恋をする。アコーデオンの名手アレクシスが、音楽で身を立てるべく努力するも、時代の波に翻弄され、成就するようで、道をそれていく。

そして、双子の息子たちの成長、それぞれの物語が、美しいメロディと、美しい映像で紡がれていくのです。

やがて、内線の中で双子の息子たちはその命を奪われ、アコーデオンのミュージシャンとして渡米していたアレクシスは第二次大戦で、米軍兵士として戦い、未だ戻らず。おそらく沖縄戦での戦死を予感させる手紙のナレーションが流れる。そして、一人残されたエレニが、息子の亡骸に突っ伏して泣き崩れ暗転、エンディングするという壮絶なラストシーンを迎える。

浜辺いっぱいに干された真っ白なシーツの画面の中で展開するドラマ、時間や空間の大胆なカットバックを繰り返す映像編集の妙味、その卓越したテオ・アンゲロプロス監督の演出は、芸術としての映画の完成品を私たちの前に目の当たりにしてくれます。

すべてにおいて、ワンランク上の作品ですが、決して、取っつきがたいほどの難解さはなく、ただ、映像表現の極みを娯楽として楽しむことができるという点で、至上の一本ではないかと思います。本当によかった。

エレニの物語は三部構成で、この作品が第一部、第二部が、残念ながらテオ・アンゲロプロス監督の遺作になってしまったのがとにかく残念ですね。