くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「母情」「抱きしめたい −真実の物語-」

母情

「母情」
これは、なかなかの佳作でした。とにかくカメラアングルが非常に美しい。その美しい構図の合間合間に、画面奥から手前に歩いてくる人物をゆっくりとしたカメラでとらえる移動撮影、さらに、峠の道を見下ろす俯瞰のショットなど、絶妙の映像づくりは、まさに清水宏監督の世界を堪能できます。

映画は、電車の中、三人の子供が一人の絵描きに顔をデッサンしてもらっているシーンから始まる。少し離れたところに、再婚を考える一人の母、彼女には冒頭で写った父親違いの三人の子供がいて、世話をしてくれる人を捜すために、実家にやってくるところから始まる。

末娘を預け、次男を預け、後長男だけというところで、最後の一人に苦慮し、かつて乳母だった女性が峠の茶屋にいるということで、向かうが、あいにくの雨と、疲労で倒れてしまい、旅館で寝込む。そこには、かつての画家も一緒に泊まっていて、わずかなドラマが展開するのが後半部分。

途中で、すれ違う旅芸人の一行をとらえるカメラのシーンも美しく、雨に張り付くチラシのカットなど、本当に見事なほどに絵づくりができている。

やがて、峠の茶屋に行ったものの、すでに、母親は、子供を預けたことに後悔し始めている。必死になって、芸人をしながらも赤ん坊を連れて歩く旅芸人の女にも影響される。そして、極め付き、長男が、何でもするから母親の元においてくれと懇願、母は次男も末女も引き取ることに決意してエンディング。

完成された映画作りのうまさを堪能できる一本で、スタンダードな画面の中で、時にフルショット、時にバストショットなど、カメラアングルのみでなく、様々なカットを駆使して描く人間ドラマが実に美しい。清水宏の映像の個性を堪能できる一本でした。


「抱きしめたい 真実の物語」
北川景子目的でもあるのですが、塩田明彦監督久々の一本を見に行く。
実話の映画化でもあり、ストーリー云々に感想を書くのは間違いだと思うので差し控えます。ただ、日本のどこかで、こんなにも切ない悲しい出来事が起こっているという現実が、ただただ、胸に迫る一本でした。

物語は2014年、雅巳がバスケットボールの試合をしているシーンに始まり、傍らに、愛する恋人つかさとのひとり息子がいる。そして、時はさかのぼり、雅巳とつかさの出会いの場面へ。よくある導入部である。

交通事故で、車椅子の生活を余儀なくされたつかさが、タクシーの運転手をしている雅巳と出会い、雅巳は、今付き合っている彼女と別れて、つかさと交際し、やがて結婚、そして子供をもうける。しかし、つかさは子供を生んだ日に、急性の妊娠性脂肪肝になり、10日後に死んでしまう。もちろん、障害と病気は関係がない。では、彼女に訪れた、交通事故という不幸、さらに出産直後の死、こんなにも重なる悲劇と、雅巳と出会ったことの幸福、いったい、人生のどこにその道しるべがあったのかと考えてしまう。

映画作品としては、順当に、彼らの生きた姿を映し出して行くだけで、特に、凝った演出もされていないストレートな映像である。だからこそ、この現実が切なく感じてしまう。果たして雅巳の未来がどうなるのかは、映画としての余韻ではなく、現実の未来へと託される。そう考えると、たまらなくなるのである。

作品としては普通である。ただ、北川景子はやはり素敵だなと、締めくくれば映画を見たという感想で終えることができるかもしれない。